万人向けのクルマとしてはある意味100点の完成度! 【黒沢元治のドライビングプレジャークエスト:カローラクロス編】

日本グランプリを2度制覇した伝説のレーシングドライバー、ガンさんこと黒沢元治。当代随一のドライビングテクニックと分析能力を誇るガンさんが世界中のクルマを評価する! ガンさんがクルマに求める「ドライビングプレジャー」は備わっているのか? 今回はトヨタ・カローラクロスのハイブリッドモデルを評価する!

試乗車:トヨタ・カローラクロス

 国内ではセダン、ハッチバック、ワゴンと展開するカローラシリーズに新たに加わったクロスオーバーSUV。最低地上高はカローラ ツーリング比で+30mmの160mmとなっている。今回試乗したハイブリッドには、リヤにもモーターをもつE-Fourが設定され、さらに1.8リッターNAのガソリンモデル(FFのみ)も選択可能だ。E-Fourはリヤサスペンションにダブルウイッシュボーンを採用する。

日常使いや家族でのレジャー使用ならケチのつけどころがない

 今回評価するクルマはカローラの名を冠したSUVであるカローラ クロスだ。初対面となる同車は、大きく堂々たる体躯に見える。また、Aピラーが立てられており、グリルも切り立った平面に近い形状で、一時期流行ったAピラーが寝かされたデザインとは一線を画しており好印象だ。

 まずはゆっくりと荒れた路面を流すが、いきなり驚かされた。静粛性が高く、振動が抑えられて非常に質感が高いのだ。今回の試乗モデルはハイブリッドであり、この低速走行ではほぼEVモードであったが、そういうことではない。同じパワーユニットを積むプリウスやC‒HRなどに比べてボディ剛性が1段高く、その剛性アップ分が、ボクが振動剛性と呼ぶ領域を十分に満たしたのだ。これはワインディング本線でペースアップしても同じ印象だ。クルマは路面のギャップやアンジュレーションにより常に入力を受ける。さらに風による影響、クルマのパワートレインの影響などでさまざまな振動が発生するのだ。ボディ剛性が十分に高いと、こうした振動が抑制でき、静粛性が高く、また質感の高い走りに仕上がる。

 さらに感心させられたのがブレーキだ。ひと昔前のハイブリッド車は極端に言えばスイッチのようなカックンブレーキも多かったが、いまどきの電動車はかなりフィーリングが改善されている。そのなかでもカローラ クロスは、タッチやコントロール性に優れていた。加えて、かなり暖かくなってきたこの季節に、長時間ワインディングを走行したため、フェードが起こることを想定して注意しながらドライブしたのだが、減速度の変化はなく、耐フェード性も十分と言えよう。

 1.8リッター+THS IIのハイブリッドシステムはさまざまなモデルに展開されているが、アップダウンの激しいワインディングで試乗したカローラ クロスにとって必要十分で、レスポンスも絶対的な加速も何ら不満はない。

 また、素晴らしいのがダンパーである。この価格帯からして、あえてブランド名を押し出すようなものを使用していることはないと思うが、じつに質の高い動きを見せていた。最近のクルマでボクがよく指摘している、コンプレッション側が利いていて、それに対してテンション側が利いていないためにフロントがヒョコヒョコと安定しないといったこともなく、またダンパーが動き始める微細な領域の押さえ方が素晴らしかった。

 タイヤについても触れておこう。ミシュランのプライマシー4を装着していたが、パターンノイズが上質で高い静粛性を持っていた。加えて縦バネが利いていながらも横力に対して逃げるようなこともなく、先に述べたダンパーとのマッチングも見事である。これはテストチームの仕事が素晴らしいのであろう。

 今回の試乗で、ボクは非常に感心させられた。スポーティに走らせることを考えれば、また別の評価軸で論ずることになろう。だが、日常使いや家族でのレジャーが主となることが想像できるカローラ クロスは、ある意味で100点の完成度であった。万人のために価格を抑え、その値段を超えた上質なクルマ、それこそが歴代カローラの本質だろう。カローラの名を持つ同車もまた、そこをしっかりと突き詰めた素晴らしいクルマに仕上がっていた。

※本記事は雑誌CARトップの記事を再構成して掲載しております


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