とうとう「NSX-GT」が涙のラストラン! スーパーGTを駆け抜けたNSXについて「ドライバーと開発者」に直撃した (2/2ページ)

ドライバーにもメーカーにも特別な存在だったNSX-GT

──ところで、スーパーGTの会場に来てみると、HRCの大きなトラックが目につきますが、HRCのスタッフは何人くらい来ていて、何をやっているのでしょうか?

佐伯氏:人数は秘密です(笑)。仕事の内容としては、5台のNSX-GTの走行データを吸い上げて解析しています。F1のデータ解析は現地ではなく、「さくら」(※栃木県さくら市/ホンダ・レーシングの本拠地)でやっていますが、スーパーGTではテレメーターが禁止なので現地で対応しています。

──ちなみにNSX-GTは各チームに販売しているのでしょうか?

佐伯氏:売ってはいませんよ。

ピットレーンから出てくる複数台のホンダNSX-GT

──うーん、貸与している感じなんですかね。ちなみに値段をつけるといくらですか?

佐伯氏:むちゃくちゃ高くなるでしょうね。共通部品の値段も上がってきていますし、独自で開発している空力やエンジンもありますので、「高い」としかいえません(笑)。

レース中のホンダNSX-GT(17号車)

──やっぱり高級住宅と同じくらいの高級車なんですね。ちなみにシーズンが終わったあとのNSX-GTはどうなるんですか? どこかに展示されているんでしょうか?

佐伯氏:2000年のチャンピオンマシンなど数台はモビリティリゾートもてぎ内のホンダ・コレクションホールに展示されています。

──そういった意味では2020年のチャンピオンモデルも展示されるかもしれませんね。ところで、長年に渡ってNSX-GTで戦ってこられたので、やっぱり開発者としても寂しい……みたいな感情はあるんでしょうか?

佐伯氏:開発側からすれば、与えられたクルマで結果を残すことが使命なので、NSXだろうとシビックだろうとあまり気持ちは変わらないですよ。それでも、NSX-GTでいえば、市販モデルと違ってFRになっても続けさせて貰えた……といった部分では思い入れがあります。

レース中のホンダNSX-GT(16号車)

徃西氏:初代NSX-GTから関わってきましたけど、多くのファンがNSXに対して熱い思いを持っていますからね。ホンダにとっても特別なクルマですし、ファンの期待値が高いだけに、恥ずかしいレースはできないという部分では開発側としてもプレッシャーはありました。

──2024年のスーパーGTはホンダのモデルがNSX-GTからシビックタイプR-GTに変更されますが、開発者としてシビックに対する期待値はいかがでしょうか?

2024年シーズンマシンの「ホンダ・シビック タイプR-GT」

佐伯氏:NSXのようにスーパーカーの形をしたクルマをベースに車両規則に合わせて開発していくと余計な張り出しが出たりするので、そのネガの部分をポジに変えていくのか苦労をしてきたんですけど、シビックのスタイルはシュッとしていますからね。でも、シビックのようなスタイリングを持つクルマでGTカーを開発した経験がないので、やらないといけないことが多いと思います。NSXでやってきたことが、そのままシビックに通用するのか、合う・合わない部分もあると思いますので、このシーズンオフは忙しくなると思います。

 以上、佐伯氏、徃西氏にNSX-GTの特徴や2024年のシビックタイプR-GTに対する期待値を語ってもらったが、ステアリングを握るドライバーはどのような気持ちを抱いているのだろうか?

 というわけで、今度は17号車「Astemo NSX-GT」のステアリングを握る塚越広大選手に話をうかがってみた。

──これまでNSX-GTでずっとスーパーGTで戦ってきたと思いますが、ライバル車両に対してNSX-GTは“ここがスゴイ”みたいな部分はあるんでしょうか?

塚越選手:いまのGTカーは共通部品が多いので、スバ抜けてここがすごい……というようなことは言えませんが、それでもNSXといえばコーナリング……といったイメージがありますよね。

コーナリング中のホンダNSX-GT(17号車)

──塚越選手は市販モデルについても歴代のNSXにも乗られてきたと思いますが、GTカーに関しても“NSX”らしさを感じる部分はあるんでしょうか?

塚越選手:GTカーと市販モデルはまったく違いますからね。それに現行モデルに関していえば、エンジン搭載位置も全幅も違うので、“ここが同じ”という部分はないんですけど、初代モデルに関しては、ドアノブは一緒でしたし、“座った感じの取りまわし感”は似ていました。それにレベルは違いますが、NSXは市販モデルもGTカーもシャープなドライビングをクルマに求められる感覚があるので、そのあたりは似ているかもしれません。

レース中のホンダNSX-GT(17号車)

──NSX-GTでスーパーGTに乗ってきてもっとも印象に残っていることはなんですか?

塚越選手:F3に乗っているときだったので2006年か2007年だったと思うんですけど、ホンダのサンクスデーでNSX-GTのデモ走行がありますよね。そのリハーサルで“TAKATA”号に乗ったときが初めてのGTカーで、助手席だったんですけど、フォーミュラとは違うグリップ感があって感動しました。それがいまも印象に残っています。

──2024年からシビックタイプR-GTが投入されますが、ニューマシンに対する期待値はいかがでしょうか?

塚越選手:シビックは新しいチャレンジですからね。空力を含めてホンダが経験したことのないところだと思いますが、ベース車両もよくできていますからね。ハイパワーのFFは難しいんですけど、サーキットを気持ちよく攻められますし、ファンにとってはより身近なクルマ。シビックのオーナーさんにとっては親近感もあるので、これまで以上にファンとの一体感が期待できそうです。

2024年シーズンマシンの「ホンダ・シビックタイプR-GT」

 ちなみに、塚越選手は松下信治選手とのコンビで躍進しており、NSX-GTのラストランとなったもてぎ戦でも、17号車のAstemo NSX-GTが3位に入賞。NSX-GTの引退レースに華を添えた。

 このようにNSX-GTはドライバーにとってもメーカーにとっても特別な存在。そして、その役目はシビックタイプR-GTに引き継がれるだけに、2024年はニューマシンの動向に注目したい。


廣本 泉 HIROMOTO IZUMI

JMS(日本モータースポーツ記者会)会員

愛車
スバル・フォレスター
趣味
登山
好きな有名人
石田ゆり子

新着情報