成功している例もあるが……
世界的にはクーペSUVはある程度の市民権を得ている。SUVがここまで世界的に人気となる前、諸外国では2ドアクーペがパーソナルユースを取り込んでいた。そしてSUVがブームとなるなか、クーペユーザーのSUVへの移行を狙う意味もあり「クーペSUV」という、腰高なSUVながら流麗なクーペのようなスタイルを持つモデルが多くラインアップされるようになっていた。そもそもクーペはアメリカでは「セクレタリー(秘書)カー」と呼ばれるように、古い言い方をすれば「キャリアウーマン」がコンパクトサイズを中心によくクーペに乗っていた。そして、そのニーズがコンパクト・クーペSUVへと移行していったと見ている。
2010年、日産はコンパクトSUVとなる「ジューク」の初代モデルをデビューさせる。クーペSUVと単に表現できるだけではなく、圧倒的な個性を発揮しているそのスタイリングもあって、日本でも注目されたがそれ以上に海外では北米、欧州、新興国などでブームといえるほどの大ヒットを見せた。
当時、すでにルノーがコンパクトSUVを販売していた中国では、「競合するのを避けるため」などともいわれたが、海外でのジュークの人気ぶりが中国の消費者の間でも話題となり、日産ブランドではなく、インフィニティブランド(インフィニティESQ)として市場投入されていた。ジュークもデビュー直後の盛り上がりに対し国内販売の失速傾向が目立っていた。C-HRと同じくジュークも2019年に2代目がワールドデビューしているのだが、日本国内にはラインアップされていない。
日本市場では「ないよりはあったほうがいい」という消費者マインドというものを強く感じる。「普段は家族4人しか乗らないけれど、たまにお爺ちゃん、お祖母ちゃんとドライブに行くから」として3列シートを持つミニバンが日本ではよく売れているともいわれている。いまでこそ2WDモデルもよく売れているようだが、過去には「SUVなのだから4WDなのは当たり前」といった趣向性も目立っていた(アメリカではSUVスタイルであってもそのほとんどが2WDとなっている)。当然、後席もしっかり座ることもでき、荷物もできるだけ多く載せることができたほうがいいねとされることが多い。
一方欧米では乗っているクルマを見て、その人の趣向性やステイタスを探るとされている。つまり乗っているクルマがそのユーザーの「人となり」を表すことにもなるので、いまだにSUV偏重とはいうものの、日本よりラインアップされるモデルのバリエーションは幅広いものとなっているようにも見える。「よりなんでもできるほうがいい」という選択肢ではなく、自分の人生観や個性を表現できるクルマを求める購買行動のほうが目立つのである。
クーペSUVでも日本で成功している例としては、トヨタ・ハリアーを挙げることができる。クーペSUVといってもオーソドックスなSUVとクーペSUVの中間的存在にも見えるので、「クーペSUV風」といってもいいので、極端にスタイルを優先し、その分実用性が犠牲にもなっていないのだが、「格好いいSUV」に映るのも人気のひとつと考えられる。もちろん乗ってみると、過去の「トヨタ・マークII」のような価格設定に対する質感などの満足感、つまりトヨタの真骨頂ともいえる「コスパ」の高さがあることも間違いないだろう。
C-HRの2代目をみると、日本市場でラインアップしないことを前提としているのか、クーペSUVとしてさらにブラッシュアップされたと筆者は見ている。日本市場を意識するとどうしても「抑え」がきいてしまい、本来のクーペSUVとして思い切り作りこめないのかもしれない。
その意味ではヴェゼルは逆に日本市場をより強く意識してしまったので、そこを「中途半端」と感じ、購入に踏み切れない人がいるのかもしれない。ただ日本市場でも人気モデルということには変わりない。しかし、ライバルともいえるトヨタ・カローラクロスの勢いに一歩及ばないような売れ行きに見えるだけの話ということは確認しておきたい。その意味では趣向性が日本と似ているタイのバンコク辺りで見ているとヴェゼル(現地名HR-V)はカローラ・クロスとともに大ヒットしている。
世界市場でもクーペSUVがメインで売れているわけではない。ただ、とくに多様性のある欧米先進国では日本よりは選択される傾向が高いのは確か。過去には日本でも「他人と同じクルマには乗りたくない」という人も目立っていたが、いまでは「知り合いや近所の人と同じクルマに乗りたい」とする人も目立っているとのこと。日本でクーペSUVが受け入れられにくいというのは、独特な社会環境(つまりガラパゴス化)が影響しているのかもしれない。