独特なレイアウトはバランスのよさが光った
アコードインスパイア/ビガーに「FFミッドシップ」を採用した理由について、ホンダは3つの目的を掲げていた。
ひとつは「FFとしての理想的な前後重量配分の実現」。ふたつめは「超ロングホイールベース」による広大な車内空間を確保できること。そして3つめが「理想的なパワートレイン」とされた直列5気筒エンジンの搭載に最適であること。
まず、前後重量配分については、クルマの構成部品のうち最大の重量物であるエンジンをなるべく車体の中央に寄せ、フロントの車軸よりも車室側へ近づけて搭載することで、前後重量バランスの良化を狙った。
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ほぼ同時期にデビューしたFFセダン、4代目アコードが前62:後38であるのに対して、アコードインスパイア/ビガーは前60:後40。わずかではあるものの、その目的は達成できていた。
ふたつめのホイールベースを比較すると、4代目アコードが2720mmに対して、アコードインスパイア/ビガーは2805 mmと明らかに長い。この延長ぶんは車室空間の前後長を伸ばすだけでなく、前輪の位置をより前方に配置することで、エンジンのタテ置き搭載の実現にも貢献している。
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そして3つめの目的が、アコードインスパイア/ビガーのために専用設計された直列5気筒エンジンを搭載するべく、タテ置きレイアウトの実現だ。当然のことだが、直列エンジンは多気筒化すればするほど全長は伸びてしまう。一般的なFF車はエンジンを横置き搭載するため、直列4気筒あるいはV型6気筒を選択するが、アコードインスパイア/ビガーの直列5気筒エンジンは、横置きに搭載すると車体の幅も拡大せざるを得ない。そこでホンダが選択したのが、唯一無二となる「タテ置きFF」レイアウトである。
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エンジンが車体の前後方向と同一に搭載される「タテ置き」レイアウトは、エンジンの後方、つまり乗員スペース側にはトランスミッションが組み合わされるのが一般的で、そのため駆動力をリヤタイヤへ伝達するFR車(あるいはFRベースの4WD車)に採用されることが多い。
ホンダのFFミッドシップもエンジンとトランスミッションはタテ方向に整列しているが、エンジンから取り出した動力をUターンさせてフロントタイヤに届ける必要があるため、デファレンシャルギヤをエンジンの下部側面に配置。ドライブシャフトがクランクケースを貫通するという独創的な設計とされた。
この「FFミッドシップ」は、アコードインスパイア/ビガーのあと1990年に登場した2代目レジェンド、そして1993年には2代目アスコット/ラファーガにも採用された。そのレイアウトからフロントオーバーハングの短いスポーティでスタイリッシュなフォルムが実現可能であり、また搭載するエンジンの選択肢も広がるという特徴はあったが、いずれも1990年代後半には販売を終了して後継モデルは一般的な横置きFFへと回帰している。
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