歴史に残る「ダブルバブル」が特徴のスタイリング
750GTザガートが嚆矢となりえたのは、エンジンチューンの妙もさることながら、カロッツェリア・ザガートによるスタイリングによるものといっても過言ではありません。ルーフに設けられたふたつのふくらみは「ダブルバブル」と称され、のちのザガートではアイコンにさえなっています。これは当初のレンダリングスケッチに従ってボディを作ると、車高が低すぎて乗員の頭が当たってしまうことから、ザガートがバブルルーフを考案したことから生まれました。
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ちなみに、ダブルバブルはザガートにとってレガシー的なデザインとなり、アストンマーティンやランチア、アルファロメオなどのスペシャルボディに採用されています。なお、ザガートのデザインといえばエルコレ・スパーダが有名ですが、1950年代の作品はほとんどが創始者のウーゴ・ザガートによるもの。まさに遺産(レガシー)と呼ぶにふさわしいかと。
そして、750GTザガートのダブルバブルはルーフにとどまることなくリヤのエンジンフードにも膨らみがもたされています。また、リヤクオーターウインドウに設けられたエアダクトもダブルバブルをモチーフにしたと思われ、カロッツェリアファンならずとも唸らされるポイントです。
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もっとも、派生モデルの750レコルト・モンツァになると、エンジンがツインカムとなったおかげで全高が上がり、フードの膨らみはダブルでなくなっています。また、それに合わせたのかルーフのダブルバブルも省かれており、華麗なGTではなくレーシングカーを意識したことがうかがえます。
レースといえば、750GTザガートはデビューした年にミッレミリアへ参戦してクラス2位、翌1957年には同レースのクラス1/2/3位という目覚ましい成績を残しています。これもまた、ザガートのスタイリングに加えアバルトの行く末を決定づけたできごと。実際、前述のレコルト・モンツァをはじめコーダ・トロンカ、アエロディナミカなどなどレース仕様や速度記録車などさまざまな派生モデルが作られ、いずれも高評価を得ています。
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こうした派生モデルを含め、アバルトが作った750GTザガートは500台ほどとされています。が、某オークショニアは購入にあたってはのちに作られたレプリカに注意を喚起しています。詳細は割愛しますが、イタリアではわりと簡単に作れるそうで、レプリカが数多く出まわっているとのこと。ちなみに、本物かどうかを見極めるのはシャシーとエンジンナンバーのマッチング。なんだかむしろ偽物を作りやすいポイントだと思えるのですが、いかがなものでしょうか。
いずれにしろ、アバルト750GTザガートはアバルトの歴史を切り拓いたモデルであると同時に、スモールスポーツカーの金字塔といってもいいでしょう。