「FRなんてポルシェじゃないよ」は知らなさすぎる! やっぱりポルシェと納得できる「4気筒+FR」の侮れない世界 (2/2ページ)

FRポルシェだってポルシェらしさは十分に味わえる

944

 924がル・マンでクラス優勝した1981年、じつは同じレース、同じカテゴリーに944が出場していました。944LMと名乗ったプロトタイプであり、ルックスも924カレラGTとほぼ変わらなかったので、のちに944としてデビューすると予想した人は少なかったはず。

 この後、1983年に発売された944は924のエンジンとボディをパンプアップしたモデルと思われがちですが、実際はかなりの進化をしています。たとえば、VW・アウディとの共用部品は激減し、エンジンはポルシェオリジナル、平たくいえば928のV8を半分に割った2.5リッター4気筒SOHC、前後フェンダーにしても924カレラのそれを公道用に洗練させたもの。

 しかも、このエンジンは重心高を下げるためにクランクを中心に40度傾けて搭載するという凝りっぷりで、バイザッハのエンジニアくらいしか思いつかない荒業。また、大排気量の4気筒ということで、振動対策にバランサーシャフトを採用しているのですが、これが巷では三菱の特許侵害だとされているものの、事実はポルシェが独自に開発していた機構の一部が三菱の特許を侵害する恐れがあったため、両社が話し合いの機会をもったということ。

 その甲斐あってか、944はアイドリング中のシリンダーヘッドにコインを立てられたという「都市伝説」まで生まれましたが、いくらなんでもオーバーです(笑)。

 924ターボの後継モデルとして1985年には944ターボもラインアップしていますが、個人的に944のベストバイは2.7リッターに排気量アップがなされた世代の944S2(1989)だと感じています。総排気量2990cc、気筒当たり約750ccという爆圧、トルクのパンチは3.6リッターのフラットシックスを凌ぐものであり、バランサーシャフトとも相まって944S2でしか得られない愉悦が味わえたものです。

 もっとも、サスペンションは924から大きな変更はないため、とくにリヤのキャパ不足は否めませんでした。ちょっとしたきっかけでもスライドするため、腕自慢には楽しいキャラだったものの、ビギナーにとってはなかなか歯ごたえのあるFRスポーツカーだったのです。

968

 4気筒FRポルシェの最終世代ではありますが、個人的には悲喜こもごも。というのも、世間でいわれるとおり944の焼き直しという印象が否めない上、ヨーロッパGT選手権での成績もパッとせず(ワークス参戦なし)、せっかくスパルタンなCS(クラブスポーツ)を設定するも日本向けにはエアコンやパワーウインドウまで付いてきちゃう始末。

 もっとも、デビューイヤーの1991年はポルシェが964やボクスターの開発にリソースを全面的に傾けていた時期。言わば社運を賭していたころなので、出来はよくとも旧態然としていた944のフルモデルチェンジまでは手がまわらなかったのかもしれません。

 それでも、ポルシェが特許を取得した可変バルブタイミング機構のヴァリオカムや、バイザッハが直々にセッティングした4速セミオートマ「ティプトロニック」といったトピックスも皆無というわけではありません。また、CSをベースにKKKタービンを装備して、足まわりをいくらか強化した968ターボSというモデルに至っては(944ターボ用のシリンダーヘッドながら)305馬力、51.0kg-mを発揮して、最終進化モデルとしての面目躍如といったところ。

 ともあれ、RRやミッドシップがスポットライトを浴びがちなポルシェにあって、いまや貴重な4気筒FRポルシェはいずれのモデルを選んでも満足度は相当なもの。3世代それぞれに興味深い開発ストーリーや特徴が備わっているのも911と同様か、それ以上にディープな世界が待っています。入門用と侮ることなく「ポルシェが作った速いFR」をぜひ堪能してみてはいかがでしょう。


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石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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