周囲を圧倒するスピード感に期待大
ふと考える。そもそもこのビンファストという自動車メーカーはどこから来たのか。ビンファストは2017年、ベトナム最大のコングロマリットであるVINグループを母体に誕生した、世界でもっとも新しい自動車メーカーのひとつだった。
私が初めてその名前を強く意識したのは、2018年のパリ・モーターショーだった。欧州の名門メーカーが並ぶなか、突然現れた新顔。しかもゲストはデビッド・ベッカム。ずいぶん派手なデビューだな、というのが率直な感想だった。当時展示されていたのはセダンとSUVの2台。BMWの5シリーズとX5をベースにし、スタイリングはピニンファリーナ。技術的にも構成的にも、かなり堅い。エンジン車主体だった時代を考えれば、まずはドイツの技術を土台にする──これは現実的な選択だったといえる。
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2019年には北部ハイフォンに本格的な工場を建設し、欧米の技術者やサプライヤーを積極的に取り込む。そして世界がEVへ大きく舵を切ると、ビンファストも迷わずエンジン車からEVへ全面転換した。この決断の速さは、日本メーカーと比べても正直驚かされる。2023年には国際モーターショーで最新EV群を発表し、2024年にはCESで新型モデルを次々と披露。設立からわずか7年で、ここまで一気に世界市場に打って出る例は、そう多くない。
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自動車産業を立ち上げるというのは、設計やデザインだけの話ではない。鋼板を供給する製鉄、ゴムや樹脂を生む化学、高精度な工作機械、アルミ鋳造、電子・電気、ガラス──これらが揃って初めて、量産車は成立する。優秀な設計者が何人いても、産業の裾野がなければクルマは作れない。いまのところ自前で作る部品はおよそ60%(点数ベース)といわれており、海外のサプライヤーも使っている。しかし、これからは産業基盤を構築するために、日本メーカーのようなサプライチェーンに注力するそうだ。
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ベトナムは社会主義体制をベースにしながら、市場経済のスピード感を併せもつ国だ。意思決定から実行までがとにかく速い。エリート教育では英語とITが徹底され、産業を一気に押し上げる推進力がある。2045年、建国100年を迎えるベトナムは先進国入りを目指しているが、その成長モデルが自動車産業であることは間違いない。