車体後部にファンって……ブラバムのF1か? サーキットじゃなく果樹園で活躍する「スピードプレイヤー」って何モノだ!? (2/2ページ)

登録することで公道も走れる

 操作も乗用車とはかなり違う。ハンドル、アクセル、ブレーキで走らせる点は同じでも、作業中はそこに散布装置の操作が加わる。薬剤を出すか止めるか、どの方向へ噴霧するか、風量をどうするか。さらに、果樹園のなかでは枝、支柱、棚、地面の傾斜、ぬかるみなどにも注意しなければならない。ブドウ棚のように高さが限られる場所では、車体寸法や上部の装備にも気を使う。つまり、スピードスプレイヤーの運転は、単に前へ進むだけではなく、作業と車両操作を同時にこなすものなのだ。

 こうしたスピードスプレイヤーだが、なかにはナンバープレートが付いているものもある。果樹園のなかだけを走る機械に見えるが、農業用薬剤散布車は小型特殊自動車、いわゆる農耕作業用の車両として扱われる場合があるためだ。農道をゆっくり移動している姿を見ると、普通のクルマとはまったく違う存在に見えるが、登録や税金の面では「車両」として扱われる。そのあたりも、この機械の面白いところである。

 また、独特な車体の形にも理由がある。果樹園では木と木の間を通るため、一般車のように大きく広いボディでは扱いにくい。低く、短く、小まわりが利く形が求められる一方で、薬剤タンクを積むための容量も必要になる。タイヤは農地を走ることを前提にしており、舗装路よりも土や草の上での走破性が重視される。特徴的な外観は、デザインのためではなく、果樹園という限られた作業環境に合わせて機能を詰め込んだ結果なのである。

 一般のドライバーにとって、スピードスプレイヤーはあまりなじみのない乗り物かもしれない。しかし、果樹の産地では収穫物を守るために欠かせない存在だ。病害虫を防ぎ、品質を保ち、安定した収穫につなげる。そのために、農道を移動し、園地のなかを走り、季節ごとに作業を支えている。見た目は少し変わっていて、後ろのファンはかなり目を引く。だが、その姿にはちゃんとした理由がある。

 農道でスピードスプレイヤーを見かけたら、ただの変わった農機具と思わず、果樹園を守る専用車だと考えると面白い。速く走るためのスピードではなく、効率よく、むらなく散布するためのスピード。そこに、この機械の名前と役割が重なっている。果樹園のなかをゆっくり進むその姿は、農業の現場で働く、かなり個性的なプロ仕様のマシンなのである。

 最後に名前の由来についてだが、「スピード」という名前が付いていると、速く走る農機具のように思えるかもしれない。しかし、この場合のスピードは最高速のことではなく、薬剤散布作業を効率よく進められるという意味だ。


この記事の画像ギャラリー

新着情報