単純な最高出力では測れない強さを実現
さて、グループCで華々しい成績を残すことになった962Cですが、当初はF1参戦計画の陰に隠れて、ちょぼちょぼな予算しか割かれなかったとする証言もあります。ご存じのとおり、V10とV12を新造するものの、のちに大失敗とされてしまうのですが、F1に偏っていた首脳陣を「実績あるフラット6エンジンでレースを闘うのがもっとも合理的である」と説き伏せたのがヘルムート・ボット教授でした。
この際、ボット教授はグループCカー開発に付随して空力性能の研究や、ツインクラッチATの先駆けとなったPDKの先行研究といったメリットも訴求。役員会に連なるポルシェ一族をグループCレースに振り向かせることに成功したのでした。
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空力といえばオーバーハングを存分に確保したロングノーズの956に対し、ショートノーズになった962はフロントのダウンフォースがいくらか不利になりました。が、ボット教授とジンガーはリヤタイヤを350/650 R16から330/710 R18へと幅を狭めることでリヤディフューザーの面積、空気の流入量を増やすことに成功しています。ただし、フラット6の横幅が広く、この時点で底面を使ったダウンフォース獲得は限界に達していたとのこと。
962Cが参戦した長丁場のレースはIMSAを除いて厳しい燃費制限がありました。そこで強みを発揮したのがフラット6エンジン(2.8~3リッター)で、KKK製タービン、ボッシュ・モトロニックといったバイザッハ御用達デバイスを加えた結果、レース中でも7500rpmほどで走れていたのです。
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つまり、レブリミットに近い高回転で走らないからエンジンが壊れにくい、燃費が悪化しづらいといったアドバンテージ。ならば、パワーで劣るのではないか? そうお考えになるのも当然で、決勝(レース仕様)では620〜680馬力、予選エンジン+フルブーストでようやく800馬力程度。日産やトヨタが常時700~800馬力だったことに比べればかなりのアンダーパワーといわざるを得ません。
それでも闘えた理由は「コクピットでブースト圧をコントロールしていたから」と名手、ハンス・ヨアヒム・シュトゥックがコメントしています。通常は1.0ないし1.1barで、予選は1.8(ヨストは2.0かけたこともあるそうです)、レース中のここぞという場面でも1.7くらいはかけられたとのこと。このほか、長い直線ユーノディエールでのフルブレーキ直前、かなりの距離をアクセル全閉にして燃費を稼ぐとか、力技だけではない勝利の方程式をポルシェは熟知していたのでしょう。
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早足で962Cを振り返ってきましたが、1980年から10年以上、毎週のように世界のどこかで勝利を飾っており、通算140勝とも170勝ともいわれる単一モデルでの記録はどこのメーカーも達成できていません。たしかに、強すぎて「子どものけんかに大人が出てくる」などと揶揄されることもありましたが、そうした外野に対し「我々は未来のための技術開発をしている。レースはその証明にほかならない」とボット教授は応えています。
本稿を読んで、962Cがポルシェに遺したものに興味を抱くきっかけとなれば、これに勝る喜びはありません。