クルマの歴史はここにある。黎明期のロールスやメルセデスがズラリと並ぶ「スイスのお宝博物館」探訪記
フランスへの道中で訪ねたスイスの旧車専門博物館
ピエール・ジアナダ財団自動車博物館を訪ねたのは2026年の4月。フランスはマニクール・サーキットで開催されるヒストリック・デイを取材する際に、スイスはチューリッヒ空港からの道中に立ち寄ったのです。マニクールの取材ならパリに飛ぶのが一般的。約280km/3時間弱のシャルル・ド・ゴール空港からではなく、その倍となる約560km/6時間弱のチューリッヒ空港からのロングドライブを選んだのには当然、理由がありました。

昨年、家内とふたりでラインクルーズを楽しんだ際、スイスのバーゼルにも上陸したのですが、そこからクルマで1時間の近場にフォーミュラ1博物館を発見。いろいろと画策したのですが、クルーズ船での長旅で疲れた家内のことを考えて、泣く泣く訪問を諦めた経緯がありました。
そこで今回は、そのフォーミュラ1博物館にも立ち寄れるよう取材スケジュールを組んだというのがその理由。新旧のF1マシンが並んだ様は壮観でした。こちらは次回に紹介することにして、今回のピエール・ジアナダ財団自動車博物館の紹介を続けましょう。
30年代以前オンリーの骨太な展示ラインアップ
ピエール・ジアナダ財団自動車博物館の特徴は、その展示内容。展示された40台を超える車両がすべて、19世紀末から1930年代のベテランカー(第1次世界大戦前)やヴィンテージカー(1920〜30年代)に限られているのです。

2010年に訪れたフランスはコンピエーニュにある国立ツーリングカー博物館も同様の内容でしたが、台数の多さや展示方法などで、十分にこれを凌駕するものがありました。たとえば展示パネルには車名や生産年はもちろん、エンジンやボディサイズなどのスペックに加えて、ボディを製作したコーチビルダーの名称までが明記されており、写真や車両データの整理には大いに役立ちました。ちなみに、全車両を網羅した解説書も35スイスフラン(邦貨換算約7000円)で販売されており、参考資料にと買い求めてきました。
スイスの自動車メーカーというとモンテヴェルディくらいしか思いつかないのですが、同博物館ではステラやマルティーニを発見。ステラというのはメーカー名ではなくブランド名で、メーカーはCIEM。前身だった電気技術産業のCIE(Compagnie de L’Industrie électrique)が自動車生産を始めるにあたってet mech aniqueが加わり、CIEMへ社名変更されたというもの。
1911 Stella Type 12/16 CV Torpédo 4 Places
スイスで電気技術産業を手掛けていたCIE社が1902年にCIEM(Compagnie de l’industrieé lectri queet mécanique)に変更し、ステラのブランド名でクルマの製造に進出。これは1911年式の4人乗りのトルペード(「魚雷」を語源とする言葉で、魚雷のような流線型断面のボディにソフトトップを装着した車体形状)。
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また”マルティーニ”というとフランスのレーシングカー・コンストラクターを連想するのですが、あちらは創設者のティコ・マルティーニにちなんだ社名。こちらはスイスの実業家で創設者のアドルフ・フォン・マルティーニにちなんでいます。
1912 Martini Type GA Torpédo
マルティニーは1897年にクルマを試作し、1902年にはV4エンジンを搭載した10hpと16hpを発表。戦前にはスイス最大のメーカーに成長。こちらは1912年式で、2.4リッターのモノブロック4気筒エンジンを搭載するタイプGAのトルペードだ。
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一方、注目した3車種としてはフランスのベルリエとパナール・エ・ラヴァッソール、そしてイタリア・ブランドながらフランスに縁深いブガッティを取り上げています。こうした興味深い展示車両に代表されるようにピエール・ジアナダ財団自動車博物館は”骨太”なクラシックカー博物館でした。
1900 Berliet Tonneau
1899年に設立されたフランスの自動車メーカー「ベルリエ」は大型のバスやトラック、鉄道車両も製作するフランスの自動車メーカー。こちらは1900年式のトノー(後部座席のユニット、あるいはそれを装着したクルマ自体を指す)で、後席への乗り降りには背面のドアを使用する。
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1906 De Dion-Bouton Double Phaéton
後輪2輪の3輪自動車で知られるド・ディオン・ブートンは1898年には4輪自動車を開発。こちらは1906年式のダブル・フェートンで、助手席を回転させて後列の後席に乗り込むスタイルとなっている。
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1913 Bébé Peugeot Licenced Bugatti Torpédo 2 Places
世界最古の自動車会社として知られるプジョーは1890年に自動車生産に乗り出し、1901年にはヴォワチュレット(小型軽量自動車)のBébé(べべ)を発表。その後継モデルとしてブガッティが設計したモデルがこちらのふたり乗りトルペード。
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1908 Panhard et Levassor Type T4F-JB Landaulet-Coupe by Faurax
これも世界最古の自動車メーカーのひとつとして知られるパナール・エ・ラヴァッソール。エンジンの後方にクラッチ、変速機、デフを配置するパナール・システムを構築した。ただしファイナルドライブは旧来のチェーンに固執するなど保守化傾向も。こちらは1908年式のタイプT4F-JBだがやはりチェーンドライブだ。
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1914 Darracq Type V Luxe Coupé-Chauff eur by Ottin Fils
オペルやアルファロメオ、タルボの誕生に寄与したとして知られるフランスのメーカーがダラック。19世紀末にレオン・ボレーの設計したボワチュレットを生産。こちらは1914年式のクーペ・ショーファー。ボディはフランス・リヨンのオッティン・フィル製だ。
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1922 Hotchkiss Type AL Torpédo 6 Places à Strapontins by Declérieux
機関銃のメーカーとしても知られるホッチキス(Hotchkiss:オチキスとも)は19世紀末には自動車工場に機械部品を納入しており、20世紀初頭には自動車部品を、1920年代には自動車の生産を開始した。こちらはデクレリュー製ボディを持つ1922年式の6人乗りトルペードのタイプAL。
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1923 Rolls-Royce Type Silver Ghost Aluminium Poli Torpédo Réalisé par Woodall Nicholsom
ロールス・ロイスの名声を確立したシルバーゴーストは1906年から25年にかけて製造された40/50HPの愛称で”幽霊のように静か”なことを強調している。こちらはウッドール・ニコルソン製のアルミボディを纏った1923年式のトルペードだ。
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1929 Mercedes Type WS 06 SS 710 Cabriolet Grand Tourisme
1926年にダイムラーと合併したベンツは、フェルディナント・ポルシェ博士を主任技師として27年にスポーツモデルのSヴァーゲンを発表。SS、SSK、SSKLへと発展していった。こちらは1929年式のSS710カブリオレ・グランツーリスモだ。
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1930 ALFA-Romeo Type 1750 4e Série Grand Sport Zagato
イタリア製のスポーツカーとして一時代のモータースポーツを席巻することになったアルファロメオに、1926年に主任技師として招かれたビットリオ・ヤーノが生み出した6気筒シリーズ。1500の後継として1929年に1750が登場した。こちらはザガート製のボディを纏ったグランド・スポーツだ。
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1931 Isotta-Fraschini Type 8 A Cabriolet d’origine Américaine
1900年にイタリアはミラノで起業した自動車メーカー、イゾッタ・フラスキーニが1924年にリリースした、7.3リッターのストレート8を搭載したシリーズがタイプ8A。こちらは1931年式のカブリオレだが、エンジンの最高出力は110馬力で140㎞/hの最高速を標榜している。
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1930 Bugatti Type 46 Petite Royale Coupé by Jean Bugatti
イタリアとフランスにルーツを持つブガッティは1909年の創立。ブルーに塗られたオープンボディのレーシングバージョンが良く知られるが、さまざまなタイプが存在している。こちらは1930年式のタイプ46のプティ・ロイヤル・クーペ。5.4リッターの直8エンジンを搭載している。
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1932 Voisin Type C 23 Conduite interieure Aluminium Dessinee par Gabriel Voisin
フランスの航空機メーカーとして知られるヴォワザンが1919年にはアヴィオン・ヴォワザンの社名で自動車生産を開始。高級車市場を狙い、航空機の生産で培った技術を盛り込むと同時に軽合金を多用した設計が特徴。31年に登場したタイプC23は新しい3リッターエンジンを搭載していた。
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1935 Hispano Suiza Type K6 Limousine by Van Vooren
スペインの自動車メーカー、ヒスパノ・スイザは19世紀末に電気自動車を生産している。第一次世界大戦後には6気筒モデルが主流に。34年のK6は先進的なエンジニアリングを採用。こちらは1935年式のモデルで、ヴァン・ウォーレン製のボディをまとっている。
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ピエール・ジアナダ財団自動車博物館 Fondation Pierre Gianadda – Musée de l’automobile
Rue du Forum 59, 1920 Martigny, Switzerland.
https://www.gianadda.ch/
毎日開館。開館時間は09:00~18:00
入館料はCHF 18.00 or € 18.00(邦貨換算約3600円/3320円)
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ピエール・ジアナダ財団自動車博物館は、ローヌ川がジュネーブ湖に向かうローヌ渓谷の左岸に位置し、スイスとフランスやイタリアを結ぶ交通の要衝となっているマルティニーにある。最寄り空港はジュネーブだが、日本からアクセスする場合は直行便が就航しているチューリッヒ国際空港がベスト。ローヌ渓谷を南西に進んでいくと左右に崖を見晴らす風光明媚なドライブとなる。ここまで北東から南西に走ってきたローヌ渓谷は、ここで90度方向転換し、ローザンヌに向けて北西に走るから、マルティニーはローヌ渓谷の終着点のよう。ローヌ渓谷両岸の崖にはぶどう畑が展開されているが急斜面で機械化が難しく、収穫などは人手によっている。
※本記事は雑誌「CARトップ2026年9月号」の記事を再構成して掲載しています
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