狭すぎる車間距離のアオリ運転とは違う理由
「適切な車間がとれない」というのも空間認識能力と無関係ではないだろう。たとえば、渋滞時や信号などでの停車時に前車との距離を大きく空けて、逆に通常走行中の車間距離が短いというのは、車両間隔や距離感に問題があるのかもしれない。交差点の先が渋滞していて、最後尾に1台分のスペースがあると思って前進したら、横断歩道上で止まってしまった、というケースも、やはり自車が収まる空間を認識できていないのではないだろうか。
もちろん、交差点への強引な進入や、車間距離を詰めるなどは、故意に行う悪質なドライバーもいるだろう。後者はまさにアオリ運転だ。
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一方、後続車が極端に車間距離を詰めてくるのでバックミラーで確認したら、穏やかそうなドライバーで拍子抜けした、などという話を聞くことがある。また街なかで、あおられたと思った前走車のドライバーに怒鳴られ、ワケがわからずオロオロする初心者や年配ドライバーを見かけることもある。もしかしたらそれらは、空間認識能力の欠如が原因なのではないだろうか。
そんな疑問を抱き、答えを求めていくと、空間認識能力に言及している自動車メーカーのWEBサイトに行き着いた。ホンダだ。
運転に関してリスクの高いドライバーは、「視野が狭く空間認識力が低い」こと、「リスクの低いドライバーと比較すると脳の働きに違いがある」こと、そして「AIを用いてリスク低減に導こうとする研究をしている」ことが記されていた。そこで、詳細を知ろうと研究チームのもとを訪ねた。
状況を俯瞰でとらえる上級ドライバー
お話をうかがったのは本田技術研究所の村上真一さんと長 美希さん、そして、本田技術研究所と共同でAI開発を行うアラヤの蓬田幸人さん。
AIを用いてドライバーのリスクを低減する知能化運転支援を目指すにあたり、人間の脳を研究するなかで空間認識能力が低いドライバーはヒューマンエラーが多い傾向にあるという。
たとえば、運転中は前方だけでなく、側方や後方にも注意を払うが、一般的なドライバーは前方への意識が強い。ミラーなどに目をやっても、それぞれを個別に認識しがちなので、危険に気づくのが遅れ、急操作になることもある。しかし上級者は、「いち早く危険を察知してブレーキを踏むなど、広い範囲を連続して、俯瞰的な感覚でとらえているような操作をしていました」と村上さん。
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俯瞰で状況をとらえる、というのは、レースゲームの視点を想像するとわかりやすいだろう。これまでも運転のコツとして一部で言われてきたが、それが最新の研究と一致するとは興味深い。とはいえ、TVゲームと実際の運転は違う。どうすればそんな視点を持てるのか。そのカギとなるのが空間認識能力だ。
上級者と一般的なドライバーの、感覚の違いで注目したのは脳の働きだ。ドライビングシミュレータとMRIを組み合わせ、運転操作と脳の活動部位の関係を可視化できる装置で調べると差があったというのだ。
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脳研究担当の村上さんと長さんは「未熟なドライバーは視覚に関係する部位が集中的に活動するのに対して上級者は空間認知の部位も賦活していました」。また、「急ブレーキを踏まないドライバーは空間・言語・他車の視点に立ってモノを考えるといった領域を含めた活動が認められました」と言う。
安全運転を支えるのは”考える運転”
つまり、いままでより広い範囲に目を配り、見たものを理解し、周囲の動きに気を配ることが空間認識能力を高め、安全運転につながる。そう考えれば、さほど難しいことではないのかもしれない。逆に、漫然と目の前を見て、反射的に対応するだけでは危険回避には心許ない。
“考える運転”なしに、能力の向上はないのだ。
じつは編集部内で、高齢女性に車間を詰められたとの体験談がしばしば聞かれる。しかし、蓬田さんによれば、「空間認識能力も含む危険察知テストでは高齢の方でも成績が保たれるケースがあり、これは運転経験の深さによるものと推測され、また性別差についても総合的な確証はありません」。
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おそらく理由は年齢や性別でなく、運転する範囲が近所などに限定されることで、慣れてしまって思考がおろそかになり、空間認識能力を高める機会が少ないことなのかもしれない。
これも経験談だが、直進車がいても強引に右折するクルマをよく見かける地域がある。観察していると、ドライバーの年齢や性別はまちまち。こうした”地方ルール”に疑問を持たなくなると、それが通用しない場所で周囲の動きを見誤った事故を起こしかねない。
こうしたリスクを補う技術のひとつとして、ホンダが提案するのがコーチングシステムだ。AIが規範的な安全運転と実際の運転を比較し、そのギャップを埋めるアドバイスをリアルタイムで行うので、すぐ次の機会に注意すべき点を考えて運転できるようになる。いまはまだ研究段階だが、脳レベルでドライバーをトレーニングするシステムや運転支援機能に、このAIが実用化されたら最強だ。
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もっとも、すべてを機械任せにしたくないのは、クルマ好きのホンネだろう。自動運転が本格化するまでのあいだ、安全・安心な運転は我々ドライバーの手に委ねられていることもまた事実だ。
つねに脳の空間認識能力を意識した運転で、さらなる上達を目指したいものだ。
※本記事は雑誌「CARトップ2025年7月号」の記事を再構成して掲載しています