アリアNISMO・モデル3・アイオニック5N・BYDシール。日米韓中・最新スポーツBEVガチンコ比較 (2/2ページ)

圧倒的なシャシー性能とエンジン車のような演出

 BMWの「M」やレクサスの「F」に相当するヒョンデの「N」。その名が冠されていれば、ベース車両とは別モノといえるほど手が入れられているわけで、アイオニック5も然りだ。

 電気モーターのパワーはアイオニック5 AWDの倍近い478kWで0-100km/h加速は3.5秒と強烈な速さだが、加速性能の追求を主眼にしているわけではない。高価格帯のBEVならもっと速いモデルがいくらでもあるが、サーキットを本気で攻めることを前提としているのは、いまのところアイオニック5 Nが唯一だろう。BEVでアクセル全開を続けるとバッテリー温度が上がりすぎて、たいていはサーキット1〜2周でパワーダウンするところ、徹底的な温度管理と冷却性能向上で10倍以上の周回数を可能にする。

 それ以上にユニークなのが「Nアクティブサウンド+」や「Neシフト」だろう。疑似的にエンジン車の音・振動などを表現するもので、ほかにも例はあるし、そもそもギミックは嫌いと敬遠するクルマ好きも少なくないだろうが、騙されたと思って一度は乗ってみるといい。その造り込みの本気度、こだわり具合を味わえば脱帽することだろう。直噴ターボ+DCTのスポーツカーのように、グワッとサウンドが盛り上がり、疑似シフトアップでは心地いいシフトショックまで伴う。走り始めは電子的に造られたサウンドであることを意識させられるが、しばらくすると本当にエンジン車に乗っていると錯覚するほどだ。

 サーキットを本気で走れるというだけあってシャシー性能も圧倒的に高い。とくにブレーキは制動力が高まっているうえに、ハードに踏みつけたときの剛性感およびコントロール性の高さが素晴らしい。サスペンションは明らかに引き締まっているのだが、ボディ剛性向上とのバランスや適切なダンピングで、乗り心地は犠牲になっていない。

 ドリフトを楽しむモードまであるアイオニック5 Nはスポーツカーファンにとって最高のエンターテイナーでもあるのだ。

日本車や欧州車にはない柔和な乗り味の高性能

 ここ数年で急成長を果たしたBYDがひとつのターゲットとしていたのがテスラ。今回のシールはモデル3とガチンコと言える存在だ。ほどよいサイズのセダンでちょっとしたプレミアム感も漂う。試乗車はAWDで最高出力390kW、最大トルク360N・m、0-100km/h加速は3.8秒とスポーツカーを凌駕する実力だ。

 BYD独自のブレードバッテリーは、一般的な三元系リチウムイオンバッテリーではなくリン酸鉄リチウムイオンバッテリーで、熱安定性が高い=安全性確保がしやすい、コストが抑えられるなどのメリットがある反面、エネルギー密度が低いと言われていたが、一充電走行距離はシールAWDで575km、RWDなら640kmと十分以上。セル単位ではなく、バッテリーパック全体ではエネルギー密度という課題は克服していると見ていいだろう。

 静的にも動的にも質感は日欧米のライバルと比肩しているが、印象的なのは乗り味が全体的に優しいこと。走り出した瞬間からサスペンションがスムースに動く感覚が強く、ゴツゴツ感などとは無縁。大きな凹凸を乗り越えても入力の角が丸められていて不快に感じないのだ。ロードノイズもこの価格帯のBEVとしてはよく抑えられている。

 それでいてワインディングロードでペースを上げていけば、良好な重量配分ゆえの高い運動性能を引き出せて気持ちよくスポーティに走れる。攻め込んでいくともう少しダンピングを強くしたいなど要望も出てくるが、日本の道路環境ならば、さほど問題ないだろう。

 前述のように加速力は凄まじく、スポーツモードにしてアクセルを踏み込めば高性能なエンジン車を蹴散らすダッシュを見せるが、スタンダードモードではトルクがいきなり立ち上がって戸惑うようなことがなくて扱いやすい。全体が優しい乗り味になっている。

 日本や欧州のメーカーはスポーティというキーワードが好きで、ときには必要以上に硬派な乗り味になることもあるが、シールは高性能ながら肩肘張らずに付き合えるのがいい。”気は優しくて力持ち”といったキャラクターなのだ。

それぞれ個性満点な4台と広がるスポーツEVの面白さ

 車種が増えつつあって競争が激しいとなれば多様な特徴のモデルが出現するのは必然。しかもエンジン車に比べて差別化が難しいと言われるBEVはキャラ立てに必死に取り組む必要があるだろう。

 その点、今回の4台の見所は十分だ。もっとも強烈なのはアイオニック5 N。ここまでやるのか! ここまでできるのか! と素直な驚きがある。クルマ好きのエンジニアが情熱を注ぎ込んだことがヒシヒシと伝わってくる出来だ。

 モデル3パフォーマンスはテスラの世界観に高性能BEVならではの馬鹿げた加速という遊び心がある。それでいてダイナミクス性能には真摯に取り組んでいるのだ。一方でシールは期待以上の実力の高さと、乗員を優しく包み込むような懐の深さを感じた。誰にとっても扱いやすくて付き合いやすい、というのがBYDのキャラなのかもしれない。

 アリアNISMOは、BEV経験の長い日産だからこそトルク特性が緻密に造り込まれ、洗練度が圧倒的に高い。e-4ORCEの制御によるチューニングはGT-Rでの知見なども入っているそう。それぞれ個性満点な4台と広がるスポーツEVの面白さで、今後の展開も楽しみだ。

 その一方でフェラーリやランボルギーニ、マクラーレン、メルセデスAMG、BMW MなどハイエンドスポーツではPHEVの展開が目立つ。CO2排出量のレギュレーションで有利ながら、エンジンの官能性の高さ、電気モーターの強烈なトルクを加えたパフォーマンスなど、ひと粒で3度は美味しいモデルで、この傾向は続きそうだ。

 日本のメーカーではシリーズ・ハイブリッド(+αのエンジン駆動を含む)を持つ日産、ホンダ、三菱に期待したい。電気モーター駆動によるスポーツドライビングという、将来のBEVスポーツに繋がる世界を、リーズナブルに先取りできるからだ。また、エンジンがあるからこその官能性の造り込み、本物志向のサウンドなど特有のメリットもあるだろう。BEVの本格普及が少し後ろ倒しになりそうな情勢でも、多くの可能性が広がりつつあるのが現状なのだ。

※本記事は雑誌「CARトップ2024年11月号」の記事を再構成して掲載しています


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