5速ミッションももっていたのになぜ? 高性能車のポルシェ930ターボが4速MTを貫いた理由 (2/2ページ)

モデル末期で5速化

●4速でも速かったのは、ターボエンジンの強大なトルクがあったから

 ポルシェ911(930)ターボのトランスミッションをめぐる話をさらに興味深くしているのが、NAエンジンの911との違いです。911では、モデルや年式によって4速MTと5速MTが用意されていました。その後、NAエンジンの911カレラではG50型5速MTが採用されます。

 しかし、ポルシェ911(930)ターボはすぐには5速化されませんでした。サーボシンクロシステムがパワーに耐えきれず、ターボエンジンのトルクに対応する専用設計が必要だったためです。ここで注意したいのは、ポルシェが5速MTを開発できなかったわけではないという点です。NAエンジンモデルには5速MTがあり、ターボ用の5速MTも最終的には実現しています。

 では、ポルシェ911(930)ターボは4速MTでも不便ではなかったのでしょうか。もちろん、5速MTにはギヤ比を細かく設定できるメリットがあります。加速時にシフトアップした際のエンジン回転数の落ち込みを抑えたり、高速巡航時の回転数を低くしたりするうえで有利です。

 いっぽうで、ポルシェ911(930)ターボは、低回転域ではターボラグが感じられ、過給が立ち上がると強烈な加速を見せるという、独特のエンジン特性をもっていました。とくに3.3リッター仕様の最大トルク412Nmは、当時のスポーツカーとして非常に大きな値です。そのため、ギヤを細かく刻まなくても、大きなトルクを生かして力強く加速できたのです。4速MTだからといって、性能が低かったわけではない、と考えるのが妥当でしょう。

●1989年、ついに5速MTを採用

 長く続いた4速時代に終止符を打ったのが、ポルシェ911(930)ターボの最終年にあたる1989年モデルです。この年、ポルシェ911(930)ターボにはG50/50型の5速MTが採用されました。このG50/50型トランスミッションは、NAエンジンの911カレラ用G50/00型をベースとしながら、ターボエンジンに対応するために強化され、ギヤ比も変更された専用仕様でした。さらに、この5速化ではクラッチの操作方式も変更され、従来のケーブル式から油圧式へと進化しています。つまり、単にギヤの段数が増えただけでなく、変速操作そのものも改良されたのです。

 1989年というタイミングも興味深いところです。ポルシェ911(930)ターボは1975年から長く生産されてきましたが、唯一、5速MTを採用したのは最終年にあたる1989年でした。長らく続いたポルシェ911(930)ターボのラストイヤーを飾るにふさわしいモデルであり、日本はバブル絶頂期。並行輸入を含め、駆け込み需要が相次いだことはいうまでもありません。ついに搭載された5速MTは、後継モデルとなる964型の911ターボ3.3にも搭載され、993型の911ターボでは6速MTへと進化します。

●まとめ:4速MTまたは5速MT、それぞれのポルシェ911(930)ターボに優劣をつけるのはナンセンス

 現代のスポーツカーでは、6速MTや7速MT、あるいは多段化されたATやDCTが一般的になっています。その感覚でポルシェ911(930)ターボを見ると、「300馬力もあるのに4速しかない」という点が不思議に思えるかもしれません。

 ポルシェ911(930)ターボは「4速しかなかった」のではなく、「ターボの強大なトルクに対応することを優先した結果、4速MTの時代が長く続いた」。このように考えると、ポルシェ911(930)ターボの4速MTは、単なる珍しい仕様ではなく、ポルシェが高性能化と信頼性を両立させようとした時代の技術的な選択だったといえるでしょう。

 市場では、「最終モデル&唯一の5速MTを搭載する」1989年モデルのポルシェ911(930)ターボが人気です。しかし「4速MTこそ、本来のポルシェ911(930)ターボの姿」と捉え、シンパシーを抱くオーナーが存在することもまた事実です。

 もはや、4速MTまたは5速MT、それぞれのポルシェ911(930)ターボに優劣をつけるのはナンセンスというもの。もし、ポルシェ911(930)ターボの購入を考えている幸運なユーザーがいるとしたら……。周囲の協力を得て、乗り比べ、自分がどちらの仕様が好みか、見極めればよいのです。


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松村 透 MATSUMURA TOHRU

エディター/ライター/ディレクター/プランナー

愛車
1970年式ポルシェ911S(通称プラレール号)/2016年式フォルクスワーゲン トゥーラン
趣味
公私ともにクルマ漬けです
好きな有名人
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