クルマの「電子デバイス」がないとどうなる? プロが解説するいまどきのクルマの「見えない技術」の凄すぎる恩恵 (1/2ページ)

※本記事は雑誌「CARトップ2025年2月号」の記事を再構成して掲載しています

エンジンの始動だけでも苦労したキャブの時代

 電子デバイスとは、自動車のさまざまな機能を電気的に操り、実用性や総合性能を高めているものだ。それはパワートレインからサスペンションやブレーキ、ステアリングなど自動車全般の多岐に及ぶ。かつて電子デバイスが存在しなかった時代はどうだったのか?

 私の世代でもエンジン始動時には、まずアクセルを2〜3度あおり、チョークレバーを引き、若干アクセルを開いてセルモーターをまわす。すると数秒のクランキングでエンジンが始動する、というアナログな流れだった。気温が高い夏場と低温の冬場ではチョークの引き具合やアクセル開度などが微妙に異なり、季節を通じて慣れ、親しんでいったものだ。他人のクルマだと一発でエンジンをかけられないこともあった。

 チョークとはスロットル上流の空気の流れを遮断してキャブレターに燃料を多く吸い上げさせるための装置。そうした仕組みを理解していないとプラグをカブらせて(燃料で着火点を湿らせる)しまい失火を引き起こす。「プラグがカブる」というワードは、いまや死語と言えるだろう。

 それが現代では、ブレーキを踏んでいる必要はあるが、誰でもスタートボタンを押すだけでエンジンを簡単に始動させることができる。それを可能にしたのはエンジンのシリンダーに適正な混合気を供給する燃料噴射装置と、その電子制御を可能とする電子制御燃料噴射技術だ。吸い込む空気量と供給するガソリン燃料を緻密に計測し、最適な混合気をシリンダーに送りこむことができるようになったのである。

電子制御があればこそのいま現在の電動化

 電子制御燃料噴射装置の登場で、ターボなどの過給機も高効率で作動させることが可能となり、ノックセンサーと点火時期制御によって故障も激減。ガソリンエンジンなど内燃機関の高効率化においても、電子制御は大きな貢献をしてきたと言える。

 近年はハイブリッド車やBEV(=バッテリー電気自動車)も増えてきたが、こうした電動化も電子制御のおかげで実用性を保てているといっていい。ゼロ回転から最大トルクを発生できる電気モーターの場合、ともすれば発進時に急激な駆動力がかかりすぎ、スムースな発進がしにくい。またバッテリーの効率を最大限に引き出すために消費電力や温度管理をつねにモニタリングし、制御していなければならない。

 ドライバビリティの面では内燃機関で培われた制御ロジックが求められ、電気メーカーであれば、すぐ電気自動車がつくれるとは限らない部分と言えるのだ。BEVのバッテリーは充放電時に高熱を発し、その温度管理が電費や耐久性において欠かせない。バッテリーから電力を引き出す際も、充電時もつねに電子制御で管理を行い、その目には見えないロジックが成功のカギとなってくる。

 そう、「電子制御」は基本的に目で見ることはできない。しかし自動車を安心・安全に走らせるためには、なくてはならない技術なのだ。

ブレーキで引き出されるタイヤのグリップ性能

 走行性能を司る電子制御でいち早く一般化したのはABS(アンチロックブレーキシステム)だろう。現在では大半の車種においてABSの装着が義務付けられている。得られる効果が大きいからだ。

 自動車のブレーキは、4輪にそれぞれ摩擦ブレーキが装着され、ひとつのブレーキペダルを足で操作して作動させる。自転車でも前後のブレーキを右手、左手個別のレバーで操作するのに、自動車のブレーキペダルがひとつというのは理論的ではない。かといって4つのブレーキペダルを操作することもできないので、操作性の観点から1ペダルが当然となっている。

 ブレーキペダルを強く踏み込むと、4輪それぞれのブレーキに配されるブレーキ液圧が高まり、摩擦材をブレーキディスクなどに押し付け、発熱させて運動エネルギーを熱エネルギーに変換して減速させる仕組みだ。古いクルマでは、このブレーキ配管にわずかでも穴が開いたり亀裂を生じていれば、そこからブレーキの作動液が漏れ、全車輪の液圧が低下してブレーキが利かなくなってしまう。

 ブレーキが利かない状態はきわめて危険ということは誰でも知っている。ブレーキを作動させ、減速力を発生させるのはタイヤのグリップ力にほかならない。ゆえに滑りやすい氷やウエットなど低μ路ではブレーキが利きにくい。つまり、タイヤが安定してグリップ力を引き出せていないと、いかなるブレーキ装置も役にたたないわけだ。


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中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2026-2027日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
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