500馬力のスーパースポーツでも120km/h走行に必要なのは「45馬力」だけ? レーシングドライバーが暴くクルマのエンジンの真実 (2/2ページ)

1馬力は0.75kW 1kgmは9806N・m

 このようにクルマが走行するのに必要なパワーやトルクは計算で導き出すことができる。そもそもパワー(馬力)やトルクとはなんなのかは熱力学的な単位で示される。

 馬力とは動力の単位で、1馬力=75kgm/sと定義される。よく用いられるpsはプヘルト・スケルテ(Pferde Stärke)の略でフランス馬力として知られ、hp(Horse Power)のイギリス馬力も用いられる。1ps=0.986hpなので同じ馬力数字表記であればhpのほうが大きな出力を発生していることになる。100ps>100hpなのだ。

 最近は電動化によって駆動に電動モーターが使われることから馬力表記もkW(キロワット)で表されるようになった。

 1ps=0.75kWであり、100ps=75kW。馬力表記数字は見た目小さくなったように思える。パワーとトルクの定義から最高速を求めるなら馬力が必要であり、登坂性能を求めるならトルクが重要になることがわかる。馬力はトルク×回転数で求められるので、エンジン出力の計測はベンチでトルクを測ることで知ることができるわけだ。

 トルクは回転しているエンジンを止めるのに必要な負荷をブレーキ力で計測。逆に言うと負荷がなければトルクは発生しない。エンジンを空吹かしして最大トルク発生回転までまわしても、負荷がかからない状態ではトルクはほぼ0である。

 トルクの単位がkgmであることからわかるように、トルクは1mのアームの先に1kgの力を加えたときの回転力である。かつては400kgmがその単位であったが、近年はN・m(ニュートンメートル)で示されるようになった。

 1kg=98067N・m。400N・m なら40.8kgmと以前は表記されていたわけだ。これは国際単位系が変更されたことに合わせたもので、もちろん力自体が変化したわけではない。パワー(ps)=(トルク×回転数)/716という公式があるので覚えておくといい。

マルチシリンダー化のメリットとデメリット

 一般的に最高出力を高めるためにはエンジンを高回転でまわすことが求められ、あるいはターボチャージャーなどの過給器を装着し、高回転域でのトルクを大きくすることが公式からもわかる。

 エンジンを高回転でまわすとシリンダー内のピストンが上下に稼働する速度が早まる。その限界値は25〜26m/sであると言われている。シリンダー長(ストローク)が長いとピストンスピードが高まってしまうので、ショートストロークにしてピストンスピードを限界値以下にすることが求められる。レーシングカーの高回転型エンジンにショートストロークが多く採用されているのはそのためだ。

 かつてF1エンジンが自然吸気式だった頃は2万rpmもまわされていた。アイドリング状態でも5000rpmほどでまわっているので、走行していないとオーバーヒートしてしまう。一時期は3.5リッターの排気量が規定されていたので、その枠のなかで回転数を高めるためには、ショートストロークではボアを拡大しないとシリンダーごとの排気量を満たせず、10気筒や12気筒といったマルチシリンダー化が求められたのだ。

 ボアが大きいとピストン重量が重くなり、高回転では大きな負荷がかかって破損しやすくなってしまう。だからといってマルチシリンダー(多気筒)化すればエンジン自体が大きくなってしまう。

 エンジン本体はクルマに搭載される機構の重量としてはもっとも重く、大型のエンジンでは数百kgに及ぶ。それだけに搭載する位置が運動性能面で重要になり、車体の中心に近い位置に搭載するミドシップレイアウトがベストとなるのである。

 ただ、これはハイスピードで走る場合のベストであり、乗用車の一般道走行ではフロントエンジンとしてパッケージングするほうが実用的だ。

高効率な走りに繋げるパワー/トルク特性の理解

 さて、ドライバーはこうしたエンジンをどう扱えばいいのか。マニュアルトランスミッション搭載車であれば、変速時にオーバーレブ(過回転)させないことがきわめて重要だ。そのためにはエンジン性能曲線と各ギヤの車速線図を頭に入れ、有効なトルクバンドとギヤごとの速度・回転数を重ね合わせて選択する。

 100km/hを5速で走っているときに3000rpmとすれば、シフトダウンで5→4速とすべきところで5→2速と誤操作してしまうと、2速では回転数上限をオーバーしてしまう。

 オーバーレブではピストンスピードが限界を超えてバルブとピストンが接触してしまうなどエンジンの破損に繋がる。電子制御でオーバーレブしないシステムが装備されていればドライバーはそうした不安から解放され、変速ストレスから解放されるのだ。

 パワーとトルクの特性を理解しておけば、コーナー出口の加速区間では大きいトルクを引き出せる回転数を選び、最高速は回転の高いギヤを選ぶなどで速さを追求できる。

 しかし、前述したように公道では50馬力以下での走行であり、アクセルを全開にしない状態でのアクセル開度ごとのエンジン性能はあくまで参考程度。ドライバーが感覚的にとらえ、判断することが効率のいい運転に繋がるのだ。

講師 中谷明彦

 武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒。15歳でカートを始め、大学在学中にフォーミュラカーデビュー。卒業後、CARトップ編集部に籍を置いたのちプロレーシングドライバーに転向。レース/ジャーナリスト活動と並行して新車やタイヤの開発などにもかかわり、4WD車や電子制御による車両運動性能の解析を得意分野とする。

※本記事は雑誌「CARトップ2024年11月号」の記事を再構成して掲載しています


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中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2026-2027日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
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