守りに入るのではなく挑戦する……開発陣が新型トヨタRAV4に託した想いとは (3/3ページ)

ひとりひとりが熱い想いを持っていないとダメ

 官能評価を大切にしたクルマづくりは、走りのような動的側面だけでなく、静的な要素にも貫かれている。開発チームの一員である山崎博之さんにうかがった。

「すごく地味な部分ですが、たとえばカップホルダーやアームレストの位置関係もそのひとつです。座ったときにスッと置ける位置や高さはもちろん、カップを手に取るあらゆるシーンを想定して、どうやったら取りやすいかを検討しました。最近はカップの種類もすごく多いんですが、それらすべてで使いやすい万能の位置を模索したんです。実際にモデルを造形して、座っては使ってみて、ミリ単位で削っては修正するというのを繰り返し、究極の形を探し出したんです」

 よりよいクルマを造るための環境が整っていても、ひとりひとりが熱い想いを抱いてなければ意味がない。その点において、新型RAV4の開発チームは、まさにぴったりのメンバーが揃っていたと言えそうだ。佐伯さんの右腕として、開発チームの「ヘッドコーチ」のような役割を果たした松本 章さんは次のように語る。

「じつは開発の最初のころ、佐伯が『みんなクルマのまわりに集まれ』という号令をかけたことがあるんです。それぞれの機能担当が各々で議論を重ねるのではなく、一台のクルマを囲んで、みんなで議論しろという意味です。これは言葉で言うほど簡単ではありません。なにしろひとつの検討会で多くの関連する機能について議論するため、事前準備も大変です。それを最後までやり抜けたのは、佐伯の熱さに引っ張られてひとりひとりが高いモチベーションを維持できたからだと思います」

 チームワークのよさは、営業や広報部にまで広がっていたという。そんなお話をしてくれたのは松本和彦さんだ。

「官能評価を大切にしたクルマの魅力は、紙の資料だけではすべて伝えることができません。今回は、営業や広報、プロモーションビデオを撮影するスタッフにも開発中から試乗してもらっています。開発中は車両の台数も圧倒的に足りませんし、試乗の際には社内の一定以上の運転資格を持った者が同乗する必要もあります。乗りたいという要望があっても、すべての人に応えることはほとんど不可能なんです。しかし、今回は営業・広報関係者にもしっかりと試乗の機会を作りました。結果、乗ったからこそわかったという声が多く挙がり、広告のアイディアについても数多くの提案が寄せられました。カタログのイメージモデルにアドベンチャーが採用されていますが、これはじつは日本国内だけなんです。これも試乗したスタッフから提案されたアイディアです」

 試乗会や検討会などの実現を陰で支え続けたのは、MS車両性能開発部の住江孝宏さんだ。

「熱い現場は、若手エンジニアに火を点けるきっかけも与えたと思います。彼らに芽生えた熱さに対して、しっかりと燃やせる場所を用意してあげなければと、そんな想いもありました。今回の開発を通して、若手たちもすごく成長しましたね。非常に苦労したプロジェクトでしたが、彼らの姿やクルマの仕上がりを見ると、やった甲斐があったと心から思えます」

 企業が大きくなればなるほど、組織や慣習にしばられて、萎縮してしまったり、やりたいことを貫くことが難しくなったりする。そう考えると、新型RAV4の開発は、3人の「匠」の協力をはじめとした新しい取り組みを実現してしまったという意味で、じつに型破りなプロジェクトだった。いささかありきたりな表現になってしまうが、それを可能にしたのは、エンジニアたちの熱いハートだったのではないだろうか。佐伯さんはインタビューの最後にこんなことを語ってくれた。

「トヨタでは、”もっといいクルマづくり”というキーワードを掲げていますが、じつはそれも物差しで測れるものじゃない。いいクルマかどうかは、お客さまの心が感じるもの。それを造るためには、われわれ自身が心で感じられる開発をしていかなければならないんです」

 すべてをやり切ったと語り笑顔を見せてくれた佐伯さん。彼らの強い想いと徹底的なこだわり、その集大成が新型RAV4というクルマと言えそうだ。


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