社長が自らドリフト!  万人ウケ主義だったトヨタがいまクルマ好きに寄り添う理由 (2/2ページ)

トヨタが持っていた信頼性に情緒的な要素をプラス

 考えてみれば、トヨタのクルマはけっして平均点的な味付けだったわけではない。スターレット、スープラ、レビン/トレノ、MR2といったスポーツモデルが多くのドライバーを鍛え、育ててきた。AE86がなかったら、ドリフトという文化が生まれていなかったであろう。じつはトヨタにはアクティブで刺激的なブランドという側面もあったりするのだ。

 そうはいっても幅広いラインアップを持つ大企業のトヨタである。いくら社長個人がモータースポーツ好きであっても、これほど表立って活動、積極的に露出していくことには賛否があるだろう。そもそも、モリゾウという偽名(?)を使ったのも当初は表立って活動できないという事情あってのことだった。

 大企業だからこそ、ブランド価値の持続性を考えると属人的にブランド価値を高めることの危うさもある。Appleはスティーブ・ジョブズ、ホンダは本田宗一郎と、創業者が築き上げてきた世界観が亡き後もブランドを支えているケースは少なくない。豊田章男社長は創業家ではあって創業者ではないが、まさに創業者的なキャラクターでトヨタ・ブランドを強化しているのは間違いない。

 現時点では、豊田章男社長のドライバーとしての活動は市場から好意的に捉えられているし、ブランド的にはプラスに働いているといえる。現時点で、豊田章男社長としてのモータースポーツ活動が認められているのは、社長だからというだけではない。周囲が、“モリゾウとしての活動”がブランド力を強めると認めているからといえる。しかも天才肌の経営者ではなく、共感性もあるキャラクターとして認知されている。

 あえて言語化するならば、トヨタというブランドが持っていた信頼性に、モリゾウとしての活動がエモーショナルな部分をプラスした。それによって、ブランド・ロイヤリティが明確に高まっている。つまり、付加価値商品を受け入れてくれる素地が出来上がっている。株主などのステークホルダーがモリゾウとしての活動を認めるのも当然だろう。モータースポーツ活動にはリスクがある。活動初期に止めようという声は大きかったはずだが、それを超えてきたからこそ、いまのトヨタが強いブランド力を身に着けることができたのだ。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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スズキ・エブリイバン(DA17V・4型)/ホンダCBR1000RR-R FIREBLADE SP(SC82)
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