厳しい建設条件とまだまだ少ない登録台数から増加は厳しいか
トヨタの燃料電池車(FCV)であるMIRAI(ミライ)が、2代目へフルモデルチェンジをする。そのWEBサイトのなかに、「水素ステーション一覧」というコンテンツがある。検索すると現在133カ所の拠点が存在している。
電気自動車(EV)の充電設備は、急速充電で7600カ所以上、普通充電を含めると2万2000カ所以上、そしてテスラ用でさえ183カ所あるのに、なぜ水素ステーションの整備が進まないのか。
答えは明快だ。水素が、元素のうちでもっとも小さく軽い物性だからである。
世界的に70MPa(メガパスカル=約700気圧)でFCVへの水素充填が行われており、そのための水素ステーションの設備を設置するには、500平方メートルの敷地が必要とされている。約150坪の広さだ。
なおかつ、水素ステーションに屋根を設けることができず、上にビルを建てることもできない。なぜなら、万一水素が漏れたときには空気中に拡散させ、濃度を高めないことが必要であり、屋根やビルがあるとそこに水素がたまり、限度を超えると発火や爆発を起こす可能性があるからだ。東日本大震災で福島第一原子力発電所が水素爆発したのも、原子炉建屋のなかに水素が溜まったからである。
ガソリンスタンドでは、上にビルが建っているところで営業しているところがある。しかし、水素ステーションでは不可能だ。
そして都市部では地代が高いので、いつ訪れるかわからないFCVの客のために、水素ステーションだけを設けるわけにはいかない。地代の高い都市ではビルを建て、その家賃で建設費を返済し、利益も上げなければならないからだ。地代の安い地域なら青天井の水素ステーションを設けられるかもしれない。しかし、FCVに乗った人が頻繁に訪れることは考えにくい。
したがって、採算を度外視してでも人口が多く地代の高い都市部などに水素ステーションを設けられるのは、エネルギー会社が持つ土地くらいしかできない相談なのである。
トレーラーに水素ボンベを搭載した移動式の臨時の水素充填所は、都市部の空き地で充填することができるかもしれない。しかし、FCVの所有者にしてみれば、自分の都合で水素を充填できないのは不便で、そこまでしてFCVを買う理由はないのではないか。
行政や法律の問題も残るかもしれない。だが、そもそも、元素としてもっとも小さくて軽い水素を扱う以上、消費財としての乗用車のために都市部に水素ステーションを増やすことは難しいのである。
長距離トラックやバスなど、生産財として営業で利用する車種であれば、たとえばトラックターミナルやバスターミナルなどに青天井で水素ステーションを設けることはできるだろう。世界で物流などにFCVを使おうとする動きがあるのも、そのためではないか。