ド新車なのに販売台数は期待外れ! それでもN-ONEとMX-30の「重要すぎる」存在理由 (2/2ページ)

間口を広げるために柔和なデザインとなったMX-30だが……

 一方、SUVのマツダMX-30は、マイルドハイブリッドを2020年10月、電気自動車のEVモデルを2021年1月に発売した。1カ月の販売計画は1000台と少ないが、実際の売れ行きはさらに低く、2021年1〜4月は1か月当たり800台程度だ。販売計画は生産を終えるまでの平均値だから、時間の経過に伴って売れ行きが下がることを考えると、発売直後は大幅に超えねばならない。今の時点で販売計画を下まわる800台は辛い。

 販売不振の原因は、MX-30の魅力が分かりにくいことだ。ボディサイズや車内の広さはマツダCX-30とほぼ同じで、ドアは観音開きになる。CX-30に比べて後席の乗降性が悪く、開発意図が難解だ。その結果、売れ行きも伸び悩んだ。

 しかしMX-30はマツダにとって非常に大切な商品だ。開発の発端は、現行マツダ2(旧デミオ)を発売した直後の市場調査だった。マツダ2はコンパクトカーだから、女性にもインタビューを行ったが「こんなスポーツカーみたいなクルマは私には運転できない」「馴染みにくい特殊な小型車」といった反応が多かった。それは「魂動デザイン+スカイアクティブ技術」によるマツダ車全体の販売不振と重なった。

 そこで「今までマツダ車に興味を示さなかったお客様を振り向かせたい」「マツダの間口を広げたい」という思いで開発されたのがMX-30だ。マツダがそれまでの商品開発の欠点を認識して、新しい流れとすべく作られた。

 この考え方に基づき、MX-30の外観は従来のマツダ車に比べて柔和なデザインだ。コルクを使った内装にも、独特のリラックス感覚がある。操舵感は少しマイルドで、乗り心地も特にEVモデルは快適に仕上げた。

 以上のようにMX-30は、新しいマツダ車を築く大切な第一歩だが、前述の観音開きなどを採用したからわかりにくいクルマになった。本当ならば2代目デミオのコージー、あるいはベリーサのように、少し背の高いコンパクトカーとして女性をターゲットに開発すべきだった。

 最初に述べたN-ONE、そしてMX-30は、自社製品に対するアンチテーゼだ。N-ONEは抜群の実用性によって超絶的に売られるN-BOXとプラットフォームなどを共通化しながら、6速MTも採用して、真っ向から対抗する趣味的な軽自動車に仕上げた。MX-30もボディサイズやプラットフォームはCX-30とほぼ同じだが、従来のマツダ車に向けた反省を踏まえ、新しい流れを築こうとしている。

 好調に販売されるクルマは、多くのユーザーが購入して使っている以上は優れた商品だが、販売が低調だからダメとはいえない。将来的には「N-ONEはホンダの本質を感じさせる良い軽自動車だったね」「硬直化していたマツダのクルマ作りは、MX-30から変わり始めた」といわれるかもしれない。このような可能性を秘めた商品を見つけることも、クルマの楽しさだと思う。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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