「電動化」が「目的」になってはいけない! トヨタが「水素エンジン」でレースに出た「本当の意味」 (2/2ページ)

今後もスーパー耐久シリーズに参戦してブラッシュアップしていく

 そもそも燃焼の制御は、自動車メーカーが長年研究を続けてきた基幹技術のひとつです。こう考えるならば水素エンジンは、これまでに構築されてきた自動車産業のネットワークをフルに活用して誕生した、新たな基幹技術と成りえるはずです。

 一方、水素エンジンを搭載したCorolla H2 conceptを受け入れるためにレース(業界)も新たな体制が求められることになりました。そのもっとも大きなモノとしては水素ステーションの設置が挙げられます。これまで、耐久レースなど燃料補給のあるレースでは、各チームが自前で給油装置をピットに用意し、ピット前に停車した競技車両に給油するのが一般的でしたが、Corolla H2 conceptの場合は水素ステーションに移動しての給水素となります。

 考えてみればル・マン24時間でも、似たケースがありました。ル・マンのピットには、地下に給油タンクが設けられているのですが、初めてアウディがターボ・ディーゼルを持ち込んだときは、それまでずっとガソリンを貯めていたタンクを一度洗浄して、軽油に入れ替えた、と聞いたことがあります。レースがこうして新たなものを受け入れることで、その技術が確立されていくのだと、改めて知らされた気がします。

 そういえばル・マンでも新たな技術開発のための出場枠(通常の55台に加えてガレージ56と呼ばれる枠が設けられていて日産がハイブリッドカーのZEOD RCで参戦した2014年にも、このガレージ56の枠を使っての参戦でした)を設けているように、スーパー耐久でもST-Qクラスという、メーカー開発車両の枠が設けられています。

 その水素ステーションですが、今回は、福島県浪江町の福島水素エネルギー研究フィールドで製造された水素を大型トラックに搭載したコンテナで運び込んで、Aパドックの中でも最も1コーナー寄りの広いエリアに設営していました。そのためにROOKIE Racingは、最も1コーナー寄りの45番ピットを使用。

 走行してきたCorolla H2 conceptがピットインしてくると、まずは45番ピットの前でドライバー交代やタイヤ交換など燃料補給以外の作業を行い、作業終了後に一度ピットを離れてピットビルB棟先からパドックにある水素ステーションに移動して給水素、という行程となります。およそ7~8分かけて給水素を行った後、水素ステーションからピットロードに向かい、ピットロードからコースインするという段取りを繰り返していました。水素ステーションにはある程度のスペースが必要となります。

 ROOKIE RacingのCorolla H2 conceptは今後、オートポリス、鈴鹿、岡山と転戦するスーパー耐久シリーズ各戦に参戦を予定しているようですが、限られたパドックの中で水素ステーションのスペースをどのように確保するのか、確保できるかどうかも含めて、問われることになります。ちなみに佐藤プレジデントは「今回(の24時間レース)と違ってオートポリスからは5時間とか3時間のレースなので、水素ステーションの規模も今回ほどには必要ないんじゃないか」とコメントしていました。

 水素エンジンのデビューレースとなった今回の富士24時間レースでは、「さまざまなデータを採る(佐藤プレジデント)」ために、スティントの周回数も幾通りものパターンで設定。また水素エンジンそのものではなく電気系にトラブルが出たこともあって、深夜に4時間ほどピットで作業することもありましたが、23日の日曜日には、モリゾウ選手がドライブしてチェッカーを受けることになりました。もともとが賞典外での出走でしたが、358周(1634km)を走って見事完走。24時間のうち35回の水素充填(給水素。トータル4時間)とトラブルシューティングとその対処にも時間を割くことになり、走行時間は12時間でした。

 レース後の会見で佐藤プレジデントは「水素エンジンには大きなトラブルが出ることなく想定内の24時間になりました。ただ、電気系のトラブルは想定外で、その辺りはレースまでにちゃんとやっておきたかったですね」と総括。先に触れたように水素ステーションを用意できるかどうかの問題はあるものの、「スーパー耐久に参戦を続けて技術を磨きたい」としていました。

 レースファンにすれば、また新たなチャレンジャーが現れたことに期待が膨らみますが、これまでレースに関心のなかった人たちにとっても、自動車社会を占ううえでも、水素エンジンを搭載したCorolla H2 conceptの今後の動向と、レースでの技術開発の行方は大いに興味あるところとなるはずです。

 またROOKIE Racingのピット裏ではMIRAIから給電されたホスピタリティテントや、FCVにコンバートされたグランエースのキッチンカーやFCVインテリジェントオフィスなども展示されていました。これまで、耐久レースではピット裏で発電機を回しながらIHクッカーで食事を用意し、洗濯機を回すなどの風景が独特の雰囲気を醸し出していましたが、水素を使ったFCVによる無音の給電も、新たなパドック風景となるのでしょうか。


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