バカ丁寧な「おもてなし」が本当に重要か? レーシングドライバーが感動したディーラーの「神対応」とは (2/2ページ)

現状や使用環境を踏まえて必要なものだけを提案してくれる

 まずは国産M車のディーラー。車検整備の見積もりを依頼したのだが、マニュアル通りの見積もりではなく、実際のクルマの使用状態に合わせた的確な整備内容を示してくれた。当たり前の事だが、少しでも利益を上げたいと思うディーラーにとっては不要不急の整備でも売り上げたいので「おすすめ」してくるのが通常だが、むしろ「これらは現状不要です」と説明して価格を下げて提案してくれたのだ。その結果、安売り車検を謳う業者と同額以下の整備代金で車検を済ますことができた。こうした対応を受けると、次もまたこちらでお願いしたい、という気持ちになるだろう。

 輸入車ディーラーでは年式の古い旧型モデルを持ち込むと嫌がられる。パーツの在庫がなく、整備を経験した整備士も少なくなっていてトラブル箇所を見出だすのも時間がかかり難しい。とくにOBD(オンボードダイアグノーシス)という自己診断機能搭載以前の旧式車だとトラブル箇所を発見するだけで相当な知識と経験が必要になる。

 僕が長年所有していた1994年式ポルシェ911ターボはエアコンのトラブルがたびたび起こった。エアコンガスが十分に充填されているのにディーラーではスイッチユニットのアッセンブリー交換をすすめた。それだけで20万円もする代物だが、連絡を受けた時はすでに交換後。仕方なく支払いをし受け取るもエアコンは直っていなかった。すぐに引き返し今度はエバポレーターの分解や清掃などを提案され、実施してもらうも直らず。作業代だけはしっかり請求される始末だ。

 ディーラーでは直せないとわかったので、経験豊かなメカニックのいる専門店へ預け直すと、時間はかかったもののキックボード裏に設置されたエアコンコントロールユニットの不具合とわかり、独自のネットワークで欧州から部品を取り寄せてくれて見事に直してもらえた。「料金は部品代と交換作業は簡単だったからいいですよ」という神対応をしてくれたのだ。

 最近も某M社の旧式車を購入した知人についてM社ディーラーを訪れた。まだ知識の乏しい知人に対し、担当メカは車両をリフトアップしシャシー裏側を見せて細かく解説。不具合箇所は試走して見つけ出してくれた。さらに年式からエンジンやトランスミッションなどに起こりがちなトラブルをチェック。整備が必要な箇所を見つけ出して安心して乗れるクルマに仕上げてくれたのだ。メカニックいわく、「すでに市場に出まわっていないモデルなので若いメカニックの勉強にもなります。整備作業中に気がついた箇所は試走で見つけられなかった自分のミスですからサービスで作業させていただきました。これからも長く走れるようにサポートさせていただきます!」と。

 ちなみにM社すべてが同じ対応というわけではない。最寄りのM社ディーラーはアポイントを取る段階で古い車両は扱えない、とそっけない返事だったのだ。

 今回お世話になったようなディーラーやメカニックのいるお店と出会えたら、それはユーザーにとって大きな安心となり、また次に買い替えるときはそのお店で、と思うだろう。

 ディーラーのセールストレーニングでよくアドバイスさせていただいているのは「クルマは売って終わりではなく、売った瞬間から顧客との関係が始まる」ということ。クルマは走れば整備が必要で、何年にも渡りメンテナンスや車検などでお付き合いしていく商品なのだ。ユーザーが求めているのは買う時だけの丁寧な対応ではなく、買ったあとも車の専門的な部分を徹底的に整備し、安心させてくれることなのだ。

 そうして築かれた信頼は厚く、街中から自動車整備工場が減っている現況においては「神対応ディーラー」に巡り会えたら、それはユーザーにとって極めてラッキーな出会いになるといえるのだ。

※写真はすべてイメージ


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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