いま水素やバイオマス燃料でのレース参戦にメーカーが熱心! だが乗用車への「採用」で無視できない「燃料精製」の陰にある真実 (2/2ページ)

カーボンニュートラル燃料の製造が水・食糧不足を招く?

 また、そもそも水素を車載するにあたり、35MPa(メガ・パスカル=約350気圧)であれば、二酸化炭素排出量を減らせるが、既存の燃料電池車(FCV)が使う70MPaでは、逆に二酸化炭素排出量を増やしてしまう懸念が、火力発電を使う電源構成比では生じる可能性がある。

 その理由は、水素を圧縮すると、気体の物性として温度が上がる。気体は温度が上がると密度が低くなるので冷却しなければならない。ターボエンジンで高い過給圧を使うとインタークーラーでの冷却が必要になるのと同じ理屈だ。それでもターボチャージャーの過給圧はせいぜい大気の数倍だ。しかし、水素タンクには大気の700倍もの水素が圧縮され収められている。その圧縮過程で熱を生じ、それを冷却するのだから、どれほどの電力を消費するかわからない。

 液体水素も同様だ。マイナス253℃という極低温にするためには電力が必要だ。冷蔵庫の冷凍庫の温度が-18℃だから、その14倍以上に冷やさなければ水素はガスから液体にならない。そのための電力消費量も膨大であるはずだ。家庭電化製品のなかで、冷蔵庫が多くの電力を消費する理由もそこにある。

 もし、断熱容器に入れるだけで冷却し続けなければ、1週間ほどで液体水素はガス化し霧散してしまう。BMWが2000年ごろ、大々的に水素エンジン開発を行いながら手を引いたのは、エンジン出力が出ないだけでなく、BMWが選んだ液体水素での移動は、駐車時間が長くなると水素を入れ直さなければならないからだ。

 バイオ燃料についても、廃棄される油を活用するなら逆に廃棄物を減らせられると思うが、大量にバイオ燃料が必要になると、そのために廃棄油が必要になるという矛盾に直面する。

 もしバイオ燃料用のための植物を耕作するなら、日本はいま食料需給率がカロリー換算で40%を下まわっている。食べ物を輸入に頼っているということだ。耕作放棄地の課題を抱える日本だが、だからといって燃料のための耕作を行ったら、バイオ燃料はあっても食料がない事態となりかねない。石油以外の燃料を混ぜるバイオ燃料はすでに市場で利用されてきたが、21世紀初頭に欧州で注目されたバイオ燃料の耕作は、その後、沙汰闇だ。

 エネルギーは暮らしに不可欠だ。しかし、その暮らしを支えるのはまず食料と水である。それを少なくともカロリー計算で自給自足できる体制を国内に確立したあと、エネルギーの選択をすべきだ。その点において、少なくとも乗用車で水素やバイオ燃料を利用することへの未来は厳しい。

 かつて、モータースポーツへの参戦は「走る実験室」と形容された。だが、物事の原理原則を踏まえた挑戦でなければ、企業が取り組む意味は薄まりかねない。自動車メーカーは、自らに都合のよい側面だけでなく、背景を含め検証した資料を明確に公開すべきである。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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