みんな大好き「ポルシェ911」の直系ご先祖さま「356」は実に説明が難しいクルマだった (2/2ページ)

良質スポーツカーがさまざまな派生モデルやスペシャルに発展

 356の凄いところは、原初のポルシェというポルシェ・オブ・ポルシェでありながら、プロトタイプから大量生産モデルへの軌跡が辿れるのみならず、市販されたあとも毎年、少しづつ改良や仕様変更が加えられたため、あれが違うここが違うという、マニアには趣味性の高いコレクティブルとしてたまらない代物になったことだ。

 加えて、これが肝心だが、356はスポーツカーとして良質きわまりない一台でもある。アメリカでポルシェ人気に火がついたのは356スピードスターあってのことだし、そこから生まれた派生スペシャルである550スパイダーで当時の若手映画スター、ジェームス・ディーンが亡くなった話は有名だ。

 また、アバルトがエンジンをチューンしてザガートが特別なアルミボディを架装した、カレラ・アバルトのようなコラボによる役つきモデルまで生み出した。

 356のスポーツカーとしての良質さは、とくにスピードスターがそうだが、「スイートである」ことに尽きる。「スポーツカーがスイート(甘い)」という感覚は、パワフルとか刺激的であることがスポーツカーという人には、まったく響かないかもしれない。馬力は二桁だしトルクだって細いし、ウォームローラー式で径も大きく握りも細いステアリングは、お世辞にもクイックとはいえない。

 だが、元よりコンパクトなボディで、マスを背中近くにまとめたシャシーが、埋め合わせて余りある。ちゃんとエンジンが整備された個体なら、シート後方から響くエキゾーストノートの音質は、タイプ1とはまるで別モノだ。バサバサガサガサどころか、プィイーンとあくまで精密にハミングのように軽やかに謳う。しかも、しなやかな足まわりに、意外なほど乗り心地は剛性感たっぷりでもある。

 そうした感覚に囲まれ、コンパクトなボディを操る手応えを、ヒラリヒラリと次々に迫るコーナーをリヤ荷重で踏み込んでいくフィールを、想像してみて欲しい。ドライバーの操作に忠実な、軽く小さく精密な機械だからこそのスイートさなのだ。

 2022年はちょうど、ミツワ自動車が1952年、クーペとカブリオレそれぞれのプレAを初めて日本に輸入して70年目、ポルシェの輸入権がポルシェ・ジャパンに移って早25年。356のスイートさをいまも噛みしめたい需要は、増すばかりといったところか。


南陽一浩 NANYO KAZUHIRO

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