【試乗】ついに「売れる」EVが誕生! 三菱eKクロスEVの「上質な走り」は衝撃のレベルだった (2/2ページ)

日産サクラと同じなのにナゼか違う走りのフィーリング!

 走り出すとEVらしく非常に静かで滑らかな走行フィールが印象的だ。タイヤの転がりのスムースさ、ホイールハブベアリングなど機械系の回転フィールの滑らかさなどからも上質な雰囲気を感じられる。足まわり開発担当エンジニアに聞くと、すべて日産サクラと共通だいうことだが、乗った印象としてはサクラのほうが明らかにロードノイズの侵入が大きく、またステアリングやシートを通じて伝わるタイヤの振動、バイブレーションも多い。一方、eKクロスEVはその辺が極めて上質で、ふたクラス上くらいの車両に乗っているような印象を覚える。

 リヤホイールアーチ内には跳ね石などの防音を考慮した遮音材がコーティングされており、ガソリン車にはないEVならではの上質さを演出する助けとなっているようだ。また、ドアの開け閉めに際して、機密性の高さやドアのキシミ音などにも剛性が高く感じられ、そうしたものが走行音の軽減に役立っていることが明らかに感じられる。

 アクセルを踏み込むと加速が力強くモーター駆動の良さが存分に発揮される。195Nmという数値は2リッターガソリンエンジン車並みのもので、それを軽自動車の大きさに乗せているのだから当然、動力性能は強力なものとなるわけだ。試しにスロットルを強く踏み込んでみると、トラクションコントロールが介入しながらも若干前輪がスキール音を立てるほどに勢いよく駆動力を発揮して頼もしさを感じられる。坂道や高速道路の流入区間などでこのトルク特性は大いに魅力を発揮できるだろう。

 エアコンはヒートポンプ電動エアコンで、もちろんその効果は強力だ。エアコンを使用しながら真夏の炎天下でも快適に走行できる。電費はWLTCモードで180kmと謳っているが、実際にエアコンをつけて走行してみると、市街地のストップ&ゴーが続くような状況では5.8〜6.5km/kWhのほどの電費である。日産サクラのほうが数値としては若干いい印象を受けるが、パワートレインの制御を含め、シャシーはまったく同じだというからクルマとは不思議なものだ。

 タイヤはブリヂストン「エコピア」を装着し、サクラとの唯一の違いといえばホイールデザイン程度だ。そのホイール特性の違いからなのか、ステリングに伝わるシミーや走行ノイズの低さなども特筆できるレベルにある。

 また、ハンドリングはフロア下にバッテリーパックを搭載する低重心設計が奏功してコーナリング姿勢も安定しており、パワーとシャシーのバランスが優れている。電動パワーステアリングは操舵フィールが若干重めで安心感と軽自動車らしからぬ重厚さを感じ取れる部分である。

 一方、ブレーキに関しては踏み始め初期のバイトが強く、市街地では若干カックンブレーキになりやすく丁寧な操作を心がける必要がありそうだ。

 ドライブモードはエコ、ノーマル、スポーツの3モードが用意されていて、またワンペダルを可能とする「イノベーティブペダルオペレーションモード」スイッチもサクラ同様に備わっている。その所作はサクラとまったく同じで、スポーツモードでワンペダルを使用した時の最大アクセルオフ時減速Gは0.20となっていて、市街地での操作性、またワインディング路などを走っても、おそらくペダルを踏み替える機会は相当減るだろう。

 このプラットフォーム/車体は元々BEVになることを想定し設計されているということで、ガソリン車と比べてシートアレンジやリクライニング、シートスライド量、また荷室スペースを含めて一切犠牲になってないところも特筆すべきところである。リヤシートも前後に大きくスライドし、左右個別にリクライニングするなど豊富な機能に加え、とても機能的で普段の使い勝手を向上させている。

 充電は急速と200Vの普通充電を可能としており、冷媒で冷却されるリチウムイオンバッテリーは急速充電においても十分なリチャージ容量を確保できるということで、利便性を大いに高めているといえる。

 軽自動車規格としてのeKクロスEVは、セカンドカー需要としてEVがいよいよ普及する時代に突入することを予見させてくれる。三菱は、2008年にi-MiEV(アイミーブ)という軽規格のEVを世界で初めて量産EVとして発売している。そのときすでに走りや操縦性、使い勝手などで非常に高い完成度を持っていたが、当時航続距離120kmと謳っていたバッテリー容量も、実際にエアコンなど使用して市街地を走ると60km適度の走行距離しか引き出せなかったのを覚えている。それが時代の進化とともにバッテリー効率が高まり、市街地使用でも100km以上の走行後続距離が確保できるということは非常にありがたい。

 三菱や日産の共同研究では、軽自動車ユーザーが日々使う航続距離を片道30km、往復60km程度で90%以上のユーザーをカバーできるという結論となっており、そういう意味で100km前後を走れるバッテリー容量は、軽自動車ユーザーの日常使用に対して必要十分であると言える。また、郊外など、むしろガソリンスタンドが減少しGS過疎化が進む地域においては、自宅で充電できるEV需要はより一層高まるだろう。都市部マンションなど、逆に充電施設のないところでは、いまだガソリン車のほうが優位性を保っているが、こうしたGS過疎地域ではもはやEVが最優先に普及するべき自動車といえるのだ。

 また、太陽電池パネルなどと組み合わせて充電させたり、VtoH(ヴィークルtoホーム)機能を非常時用電源として使用することも可能で、災害時に役立つ対策としての導入価値も高まりそうだ。これまでのEVは自家用車として1台持つ上でリスクの高いものであったが、軽自動車ということを考えると、セカンドカー需要としても考えられるので、普通ガソリン車を持ちつつ日常的な使用に軽のEVを選択する、あるいは一家に1台からひとり1台の需要のある郊外地方においてはEV普及の大きなきっかけとなりうる。

 EV化されたことによって走り味や使い勝手に何ら不満を感じることなく、むしろさまざまな利便性に満足感を得ながら乗れるということが極めてポイントが高い。

 車両本体価格は250万円以上と軽自動車としては高価だが、全国で55万円、東京都ではプラス45万円の補助金などを活用すれば、実際にユーザーが負担する価格は185万円程度に抑えられるという。

 三菱は残価設定や月々の支払額を抑える販売方法なども準備し、ユーザーサポートしようとしているので、いよいよEVが全国的に大きな広がりをもって迎え入れられる時代に突入したといえるのではなかろうか。今後、機会があればサクラとeKクロスEVを走り比べて、それぞれの特性や個性の違いなどをより明確にリポートしたいと思っている。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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