後ろ足で蹴り出すような「FR」らしさを表現! これまでのSUVとは似て非なる「マツダCX-60」のデザインの秘密 (2/2ページ)

車内には「日本らしさ」を追求した要素を織り込んでいる

──インテリアに関しては、実車を拝見すると、とくに「プレミアムスポーツ」のタン内装が欧州車的という印象を受けました。

玉谷 「プレミアムスポーツ」はスポーツが得意だとストレートにわかるようにしました。我々がこれまで避けてきた濃厚な、でも上質な表現をわざと入れてまとめてきました。ただし、下品になってはいけないので、タン色のエリアを広げたんですね。さらにインテリアだけではなくエクステリアも、黒を用いて引き締めています。タンと黒の2トーンですね。

 タンの色は幅が広く、少し変えただけでイメージが大きく変わります。ですので、黒とのコンビネーションで色味を決めました。黒が入ることで、タンを淡くすると、一気に優しい雰囲気になり、スポーティさが出なくなるので、それが出るギリギリの所を狙いました。

 それがヨーロピアンテイストなのは確かにあると思いますが、ヨーロッパの販売会社は「日本らしいインテリアを作ってほしい」と要求してきました。彼らは「ジャパンプレミアムとしてヨーロッパで成功したい」という想いがあるんですね。それに、ヨーロッパはお国柄が明確なブランドが多いので、「日本らしさをしっかり打ち出したい」ということで、タン内装は設定していません。「クオリティが高いのはわかっているんだけど、採用は見送ります」と。

──その日本らしい「プレミアムモダン」のインテリアですが、これを手作りではなく量産で実現したことが凄いと感じました。

 織物を均質に作るのはやりやすいんですが、カラーデザイナーが見つけてきたものが、少しキラキラとしたものと、全体的にムラがあるような、揺らぎがある所に良さを感じているので、それを量産でも感じられるような糸を織り込んだり、それを均一ではなく不均一にすることで、手作りのような温かみを出しています。

 縫い方も、間隔を微妙にコントロールしながら糸がちゃんと見えるようにすることは、他のメーカーさんでも例がなく、かつ日本らしさの表現になると思うので、まずはサンプルを作り、設計者やサプライヤーさんと話しながら、量産に折り込んでいきました。

──不均一ですが、バラつきがあるのとは違うわけですよね?

玉谷 ランダムという意味ですね。遠くから広く見ると均質ですが、生活の中で見るときはランダムに乱れます。高度経済成長期に「均質」というと、本当に目が揃った、定規で測ったようなものでしたが、日本人はそういうものが好きだったんですね。ですが、和紙のような風合いというか、複雑に絡み合った風合いの何が良いかというと、光に対する反応が敏感というか自然で、工業的ではない柔らかさが出てくるので、それをああいう布からインスピレーションを得ています。

──インパネセンターの縫い目の表現も素晴らしいですね。でも結構ギリギリ……あれ以上間隔を広げると歩留まりが悪くなりそうですね。

玉谷 そうですね。一番精緻感が出て、意図の魅力が出て、使える糸の太さも限りがあるので、一番締まって見えるものを調整して作りました。1mm増えるとすごく印象が変わりますので。斜めの角度も、少し変わるだけでダルになったり頼りなくなったりするんですね。それがちょうどいい角度になるように、コンマミリ台で決めています。

 サンプルを作って、それをサプライヤーに渡したところ、最初は彼らが持っているミシンで縫ったものが届いたんですよ。それは「全然ダメ。傷口を縫ったみたいだ」となり、「あのイメージを絶対に狂わせないように」とお願いして、そうしたらだいぶ近づいたんですね。結局はサプライヤーさんに新しいミシンを作ってもらうことになりました。

──だいぶ大がかりな話になりましたね。

玉谷 覚悟はしていましたけどね。サプライヤーさんもかなり粘ってきましたけど、当時の設備では……ミシン全部ではないんですが、縫う重要な部分は新しく作らないとできなかったんですね。そこで妥協しなかった結果が、このインパネですね。

──メインの市場は日本になるのでしょうか?

玉谷 欧州では大成功してもらわなければならないのですが、実際にお客さんからも業界からも高い評価をいただいています。難しかったのは、日本で日本人に日本の良さ、忘れかけているものを一生懸命説明するのが、ちょっと虚しい所ですね。我々の意図を正しく伝えたいというのもありますが、本当はしっかり説明して導入したいんですが、今回は我々が説明できる所までは一生懸命して、メディアの皆さんの力も借りながら、コミュニケーションしていきたいですね。

 日本人の美意識で作っている。素材をおごったから日本だというわけではなく、日本人の感覚で物を組み上げていったらこんなインテリアが出来るという軸をしっかり説明したうえで、ヨーロッパでそれが認められたら、そういう形を逆輸入してくるなど、やり方はいろいろ考えなければならないと思っています。

──木目も、敢えてランダムな雰囲気を出しているんですよね。

玉谷 そうですね。白い布で整えているんですが、整えるだけでは少し退屈になってしまいます。そこにダイナミズムも入れようとしたら、どんな変化を入れてもいいんですが、今回は自然素材を使おうと。我々が表現したいクルマらしい上質、そして日本の質感を表現するには、今回は楓(メイプルウッド)を使おうということになりました。ゆらぎのある所を選んで、しっかりとそこがアクセントになるように使っています。

──今回、白のボディカラーが新しくなりました(ロジウムホワイトプレミアムメタリック)が、技術的には従来のマシーングレープレミアムメタリックに近いのでしょうか?

玉谷 ほぼ同じです。でも白というより、マシーングレー的なシルバーを白に近付けていったというイメージが強いですね。白の色味自体は従来のスノーフレイクホワイトパールマイカと変わりませんが、その上に載せるアルミフレークをとにかく細かくして、マシーングレーと同じように平板に載せています。そうするとフェンダートップや上を向いた面に直射日光が当たると、キラッとシャープに光るんですね。逆に陰は色が落ちるので、真っ白になることを追求した白ではなく、立体感を出す白というイメージです。

──日本でもCX-60のデザインが高く評価されることを期待しています。ありがとうございました!


遠藤正賢 ENDO MASAKATSU

自動車・業界ジャーナリスト/編集

愛車
ホンダS2000(2003年式)
趣味
ゲーム
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