ホンダは「水の上も電動化」! 松江市とタッグを組んだ「遊覧船」+「電動船外機」を体験したら想像以上にメリットだらけだった (2/2ページ)

船外機はまだ序章! 松江市の実験から始まる無限の可能性

 さて、堀川遊覧船が採用した電動推進機の構造・構成について整理しよう。

 このプロトタイプを共同開発したのは日本における小型船外機の有力プレーヤーであるホンダのトーハツ。ホンダがモーターや制御系、バッテリーなどの電動パワーユニットを担当。トーハツはギヤケースやロアーユニットなどのフレーム領域を担当したという。

 前述したように専用ボディとなっている電動推進機は、さぞかし専用パーツだらけで高価なものと想像してしまうが、じつはそうではないという。

 この電動推進機プロトに使われているモーターや制御系、バッテリーは、ホンダのビジネス用電動スクーター「ジャイロe:」のそれをほとんどそのまま流用しているのだという。

 モーターのスペックは定格0.6kWで最高出力4.4kWと、通常の堀川遊覧船の採用するエンジン船外機が9.9馬力(7.3kW)となっているので、比べると見劣りするが、そんな心配がいらないのはEVを体験したことのある自動車クラスタであれば理解できるだろう。

 このクラスの船外機はエンジンとスクリューが直結となっているわけだが、222ccエンジンが低回転域で発生するトルクよりも、電動スクーター用モーターのほうが低回転で圧倒的に太いトルクを発生できることはいうまでもない。

 モーターの制御系についても、基本的には電動スクーターでのマッピングをベースとしながら船を動かすという特性に合わせてチューニングしたものだという。ユニークなのは電動スクーターにはない回生ブレーキ制御を搭載している点だ。

 船の場合は機械式ブレーキというものはなく、スクリューを逆回転させることで減速させるのだが、そうしたシチュエーションでのモーター特性の合わせ込みを考えると、回生ブレーキでいったんモーターを停止させ、そこから逆回転させる必要があるのだという。ただし、回生で得られる電力はわずかなので航行距離を伸ばす効果はさほど期待できないようだ。

 二輪の電動化に興味がある方ならご存じのように、ホンダをはじめとした国産二輪メーカーは規格化した交換式バッテリーによって電動スクーターを走らせる方向で進んでいる。そのベンチマーク的存在となるのが、ホンダの電動スクーターに採用されている「モバイルパワーパックe:(以下、MPP)」だ。

 今回、堀川遊覧船で使われる電動推進機ではジャイロe:と同じくMPPを2個使う仕様となっている。そのため船体後部にMPPを収めるケースが増設されている。

 おおよそのイメージ、遊覧船が規定のコースを1周するのにMPPの電力は30~40%くらいを消費するという。つまり、2周ごとにMPPを差し替える必要がある。

 運用方法としては、3セット6個のMPPを用意して、1セットで運航している間に残りの2セットを充電しておき、イメージ80%を超えるくらいまで充電してあるMPPに交換して連続的な運用を目指しているということだ。

 MPPの交換における手間や充電管理、バッテリーの寿命といった未知の要素もあるだろうが、そうした課題を抽出することも今回の社会実験における狙いだという。

 また、松江城のお堀は海水の混じった汽水域となっている。MPPや電動ユニットの塩害対策についても、この社会実験により明確になっていくことが期待される。

 そして、この実験により小型船舶の電動化について目途がたてば、将来的にはMPPを使う電動スクーターと電動推進機を組み合わせたエコシステムを構築することも見えてくる。

 小型船舶やスーパーカブが使われているような小さな港であれば、そこにMPPの充電ステーションを設置して、水上および陸上のマイクロ物流を一貫してゼロエミッション化するといった未来の実現も夢ではないだろう。

 ちなみに、堀川遊覧船における電動船舶は、当面は一艇だけの運用になるという。松江を訪れた際には堀川遊覧船をチェックして、電動船舶の静かさをその耳で確認してほしい。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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スズキ・エブリイバン(DA17V・4型)/ホンダCBR1000RR-R FIREBLADE SP(SC82)
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