たとえ不人気でもセダンとステーションワゴンには絶対的な価値がある! SUVやミニバンが「取って代われない」存在だった!! (2/2ページ)

セダンとステーションワゴンの出る幕はなくなった?

 ステーションワゴンは、1990年代の中盤から急速に普及を開始した3列シートミニバンに需要を奪われた。とくに1996年に登場した初代ホンダ・ステップワゴンは、全高が1800mmを超えるミニバンでは最初の前輪駆動車だ。低床設計で車内が広く、乗り降りもしやすい。低重心で走行安定性も優れていた。

 外観もシンプルで好感度が高く、売れ筋になる中級グレードのGが179万8000円と割安だったことから大ヒットした。発売の翌年となる1997年には、初代ステップワゴンは、1カ月平均で9200台が登録されている。2023年の2.5倍も売れていた。

 このように、セダンとワゴンはシティ派SUVとミニバンに需要を奪われて売れ行きを下げた。

 さらに2010年以降は、安全装備や運転支援機能の充実により、クルマの価格が高まり始めた。いまのクルマの価格を同じ車種同士で比べると、15年前と比べても1.2〜1.4倍に達する。前述のホンダ・ステップワゴンも、現行型は全グレードの価格が300万円を超える。

 その結果、小さな車種への乗り替えが進み、いまは軽自動車が国内販売総数の40%近くを占める。コンパクトカーも20%以上で、シティ派を中心にしたSUVも同程度だ。さらにそこにミニバンも加わる。この影響で、セダン+ステーションワゴン+クーペは以前に比べて車種を減らした。3つのカテゴリーを合計しても、国内の販売比率は10%以下に留まる。

 しかし、セダンやステーションワゴンが価値を失ったわけではない。全高が1550mm以下のボディは、立体駐車場を使いやすい。低重心だから前後左右に振られにくく、走行安定性と乗り心地も優れている。そのために、走行速度の高い欧州では、いまでもセダンとステーションワゴンの需要が根強く、プレミアムブランドを中心に選択肢が多い。

 とくにセダンは、後席とトランクスペースの間に骨格や隔壁が備わるから、ボディ剛性を高めやすい。後輪が路上を回転するときに発する音も、居住空間に侵入しにくい。そのためにトヨタ・センチュリーセダンとミニバンのレクサスLMを乗り比べると、乗り心地や静粛性に基づく快適性はセンチュリーセダンの圧勝だ。まったく勝負にならない。

 つまり、セダンが衰退すると本物の高級車も失われていく。偽りの高価格車が蔓延し、行き着く先には虚栄の世界が広がる。都市部は見栄えだけの軽薄なフロントマスクで溢れ返る……。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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