日本型ライドシェアの可能性と課題
そこで、日本型ライドシェアとして多人数乗車や積載する荷物が多い利用へ対応できる車種でサービスを展開するというのはどうだろうか。インドネシアでも過去には、トヨタ・ヴィオス(コンパクトセダン)ベースのタクシー専用車「リモ」が主たるタクシー車両として走っていた。
そこへ、ライドシェアサービスがインドネシアでも本格普及してきた。インドネシアでは3世代同居も当たり前な大家族も多いため、コンパクトサイズであっても3列シートをもつセダン派生のようなミニバンスタイル(前後ヒンジドア)の多人数乗車可能なモデルが自家用車として人気が高く、自家用車をもち込んで使用する現地のライドシェアをマッチングさせるとそのような車両が迎えにくることが多い。
するとセダンスタイルのリモよりも、荷物を積む時の使い勝手もよくライドシェアニーズを高める一助となり、そのなかトランスムーバーがデビューし、いまではタクシー車両の主流となった(現行ヴィオスベースでのリモはない)。
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タクシー事業者としては、所有する車両のメンテナンスの手間やコストを考えると、所有するタクシー車両の共通化が望ましい。現状の日本型ライドシェアでは、タクシー事業者が車両を用意することも目立っているようなので、「ライドシェアなら多人数乗車や荷物が多くても大丈夫」をスタンダードにするために、事業者が用意してミニバンで車両統一するというのもアリなのかもしれない。
現状のように稼働日時が限定的で台数も多くないなかでは、アプリで配車マッチングする時に車種選択できるようにすることは難しいが、海外におけるメジャープラットフォーマーが展開するライドシェアでは、それこそ二輪車からBEV(バッテリー電気自動車)、10人乗りぐらいのワゴンバスまで車種選択ができるようになっている。
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日本型ライドシェアはタクシーの繁忙時間帯や曜日を補完するものとなっている。ドライバーを志望するひとも、タクシー乗務員のように拘束時間が長くなるのを嫌い、「隙間バイト的に稼ぎたい」というひとが多いようだ。そのためタクシー業界の定番となる、圧倒的に歩合給が幅を利かす給与体系ではなく、時給制をとる事業者も目立っている。
稼働できる日時を拡大することでタクシーと日本型ライドシェアで棲みわけを図るというのも、日本型ライドシェアの存在感を高めることになるかもしれない。
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早朝に自宅最寄りで電車に乗っていると、ターミナル駅にある空港へ向かう高速路線バスの停留所へ向かうと思われる、大きな旅行用スーツケースをもった人を見かけることがある。タクシーのスマホ配車アプリは、業界に革命をもたらすほど新規需要の掘り起こしに成功した。
早朝にタクシーを呼ぶことはほぼ絶望的だった筆者自宅周辺でも、スマホアプリ配車の普及でそれほど待たずに呼ぶことが可能となったのだ。現状筆者の居住地域では早朝時間帯には日本型ライドシェアの車両も稼働している(現状は稼働台数が少ないのでマッチングする確率は低い)。
緑ナンバー(旅客運輸車両)となるタクシー車両として、ひとつの事業者があれもこれもとバラエティに富んだ車種を用意するのはなかなか難しい。「日本型ライドシェアとマッチングさせればミニバンが来る(または選択できる)」というのが利用者から認知されれば、ふたたび新たな需要開拓にもつながり、タクシーとあわせて公共輸送機関としての利便性がさらに向上していくのではないかとも考えている。
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ただし、3列シートをもつミニバンであっても、2列目がセパレートか否かで乗車定員が変わってしまうので、さらに車種や仕様(7名乗車仕様のみ用意など)を絞り込まないとその点では統一を図れない。2列目に3名が座ることのできるシートをもつミニバンに統一する必要も出てくるので、やはりインドネシアのトランスムーバーのような専用車両の用意が望ましいなど、なんだか話がどんどん大きくなってしまう。
そこは多少無責任なことになってしまうが、アプリ上で情報提供して、ミニバンでも6名乗車か7名乗車かを選べるようにするなど、配車を希望するひとの判断に任せるというのが早道なのかもしれない。ちなみに日本型ライドシェアでは、どこで使用する車両であってもドライバーを除いた4名乗車を可能とするため、軽自動車は使わないことになっているそうだ。
2列目キャプテンシートタイプのミニバン画像はこちら
4名しか乗ることができないとなると、4名以上のグループでタクシーに乗ろうとすると2台配車してもらうことになる。昔、まだコラムシフトのセダン型タクシーが多かったころは、電話でタクシーの配車を頼む時に「5名乗るからベンチシート車を」と配車依頼することができた。5名もしくは6名でも1台で済むとなれば、タクシーや日本型ライドシェアの需要拡大に貢献するのではないかとも筆者は考えている。