【試乗】やっぱりスバルはMTがいい! オーストラリアでWRXのMT仕様に乗ったら日本に入れてほしい欲が止まらない (2/2ページ)

どんなシーンでもMTで操ることが楽しめる最高の仕上がり

 かくして市街地を抜けて、バイパスから高速道路、郊外路にワインディングまで、WRX S4の走りの資質を、コキコキとMTを操作を通じて全身で再発見する、刺激的な体験を2日間近く、楽しんだ。その結論からいえば、WRXのMT仕様は単なるラリースペック公道車ではなく、4ドア・セダンの実用性を備えた良質の、しかし趣味性の高いドライバーズカーだった。

ワインディングを走行するスバルWRX S4 tS Bスペック

 というのもFA型ボクサーエンジンにMTの組み合わせは、ノッキングや駆動系の揺れをほぼ感じさせず、いかにも現代的で細やかな燃焼制御やマウント剛性の高さが、ひと昔前のMT車とは段違いの解像度を、手もとや身体に返してくる。しかもビッグボア特有の低回転域から心地よいビート感、加えてショートストロークらしいパンチの効いた吹き上がりをも味わえる。「フロアシフトMT」の実用車として模範的なアップデート感、突き抜けぶりだ。

スバルWRX S4 tS Bスペックの6速MTレバー

 スポーツカーのセンターコンソールのようにヒジに近い高さで、コキコキと手首のスナップだけで軽快に扱えるMTではないのだが、また頻度の高い2‐3速間が往復で済むようなシフトパターンでもない。だがシフトストロークの手応えと節度感が絶妙で、1-2速のゲートはドライバーから遠いのだが、ゴクリと吸い込まれるような摺動感を伴って確実に入るタイプ。最終減速比も全体的にクロースしたギヤレシオもやや低めで、発進してしまえば市街地走行はほぼ3速ホールドでもこなせてしまう。それでいて混み合う高速道路を6速で巡航中も、アクセル踏み込みに対するピックアップは鈍くない。普段走りでは適度な鷹揚さでありながら、スポーツ走行したいときはいきなり俊敏になる、そんな絶妙の塩梅なのだ。

スバルWRX S4 tS Bスペックのコクピット

 だから郊外路に出ると、ステージの広さに応じてSTIが掲げる「強靭でしなやかな走り」が、より鮮烈に表われてくる。5種類(コンフォート/ノーマル/スポーツ/スポーツ+/インディヴィジュアル)のドライブモードを切り替えながら、WRXの可変シャシーをMTで操る躍動感には並々ならぬものがある。ステアリングやペダル操作に応じた姿勢の変化や駆動の反応は、スポーツ+で当然もっとも速まるが、コンフォートでも中回転域、3500rpm辺りからブースト圧の高まりとともにステンレスの4本出しマフラーが、バリトンのエキゾーストを伸びやかに奏でる。

スバルWRX S4 tS Bスペックのマフラー部

 STIがチューニングを手がけた電子制御ダンパーは、コンフォート/ノーマル/スポーツの3段階で減衰力が変わる。いずれもストローク感はあるがロール量は少なめで、乗り心地は硬質といえる。だが嫌な突き上げのカドは丸められており、抑えの利いたボディコントロールと安定した4輪の接地がむしろ一貫している。

 制御介入が出しゃばるような感触は皆無だが、濡れた路面でも自然な回頭性のハンドリングで、旋回中に水たまりを踏んでも乱されることはなく、中高速域から加速時まで盤石の駆動スタビリティを頼りにできる。平たくいえば、メカニカル・グリップの質がもとより高いからこそ、安心して踏めるのだ。

スバルWRX S4 tS Bスペックのワインディングを走行するシーン

 8月のシドニーの気候は冬の終わりかけで、天気が目まぐるしく変わってにわか雨に何度も遭遇した。水たまりもあれば舗装のヒビ割れ、パッチ路面も少なからずで、起伏の激しい丘陵地のワインディングは決して平滑な路面ばかりではない。

 そうした変化の激しい土地柄だからこそ、まわりにスバル車がいっぱい走っているなかで、今回は500km近くの距離を重ねた。走るほどにMTで操る充実感が得られ、そこに切れ味と奥行きが自然とついてくる、それがWRX S4 tS の印象だ。

スバルWRX S4 tS Bスペックのコーナリングシーン

 オーストラリアでは舗装路を少し外れると、アウトバックと呼ばれる未舗装のカントリーロードは珍しくはない。そんな道にも入ってみたが、地上最低低135mmの十分なクリアランスがありながら、コーナリングにおける低重心ゆえの安定した踏ん張りは、WRX S4の十八番ですらある。走りのために荷室やリヤシートなど実用性を犠牲にしたスポーツカーではなく、手頃なサイズ感のセダンでそれが実現されているのは、まさしくSTI謹製のコンプリートカーならでは。MT仕様ならその手応えというか歯応えが、心地よく増す。

悪路を走行するスバルWRX S4 tS Bスペック

 ちなみにあとまわしになったが、MTシフトレバー以外の操作系、とくにABCペダルのうちアクセル&ブレーキの距離感まで、巧みに作り込まれた配置にも唸らされた。ブレーキペダルは右足の母指球で初期ストロークをグッと押さえた先では、踏力の強弱で調整しやすく、アクセルペダルより深々と奥に沈みすぎる嫌いがない。要はヒール&トゥがしやすい配置&可動域に収まっているし、ブレンボの強大な制動キャパと相まって、減速や制動でも飽くことなくコントロールを楽しめる。単純に、サーキットなどのスポーツ走行まで睨んで突き詰められたディテールというだけでなく、うねる・跳ねる路面でも確実な操作性を担保するスバルらしい「0次安全」にも繋がるところだ。

市街地を走行するスバルWRX S4 tS Bスペック

 そう、MTとはいえアイサイト標準装備で、ACCで前車と一定距離を保ちながらの巡航や加減速も可能だ。無論それは、選択中のギヤの範囲内でのこと。エンジンもギヤ比も寛容だからこそ、車列が流れていればシフトチェンジは不要だが、渋滞などで25km/h以下に減速するとACCはオフ、30km/h以上で再設定が可になる。2ペダルならほぼ任せられる局面でもひと手間が要る訳だが、これを面倒と感じるのならもとより「2ペダル向き」、もしくは「自動運転向きドライバー」だ。

スバルWRX S4 tS Bスペックのアイサイトのカメラ

 というわけで、試乗以外は生理的現象という出張の旅程だったが、市街地から高速、ワインディングまで、WRX S4の資質をMT操作を通じて再発見する、刺激的な体験となった。身体が思い出すか慣れてくるかすれば、MT操作自体が生理的なものだからこそ、2ペダルでは物足りなくなるのだが。

 このMT仕様の国内発売はいまだアナウンスされていないが、オーストラリア現地での車両価格は6万7587AUD(約648万円)。右ハンドル仕様のもうひとつの好適仕向け地として、日本市場を是非とも検討してほしい、そう願わずにいられない1台だった!

WRX S4 tS Bスペックの主要諸元表


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南陽一浩 NANYO KAZUHIRO

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