クルマの理想「フラットライド」はクルマだけで実現できない! 優れたクルマの条件と必要な運転技術をレーシングドライバーが解説 (2/2ページ)

サスペンションを活かす均整の取れた強靭な車体

 サスペンション設計では、バネ上共振周波数の設定が重要だ。一般的にリヤ側をわずかに高く設定することで、前後振動の位相を整えてピッチング(=車体の前後揺れ)の抑制を図る。減衰力、とりわけ微低速域の制御は姿勢変化の初期挙動を決定づける。

 しかし、これは足まわり単体では成立しない。ボディ剛性が脆弱だと車体構造自体がバネとして動いてしまい、制御不能な揺れを生む。環状骨格を強固にし、サスペンションの取り付け点を正確に保持することが前提条件だが、なかなか簡単にはいかない。スキー選手も筋肉や体幹など、日々のトレーニングによる強靭な肉体作りが必須となっているのと同じだ。

 さらに重量配分と慣性モーメント。重いエンジンやバッテリーがオーバーハングにあれば振り子のような挙動が増幅される。質量は可能な限り低く、中央に。これがフラットな姿勢を生む近道である。

車体の水平を保つためのスムースなドライビング

 ここからが今回のテーマの核心だ。

 どれだけ優れた車両でも、操作が粗ければフラットライドは崩れる。ブレーキのリリースは丁寧に行う。停止直前にペダルから一気に踏力を抜くとフロントが持ち上がって揺れが残る。最後の一瞬で圧を緩め、ノーズを静かに戻す。これを意識するだけで乗り味は激変する。

 操舵も同様だ。一般道の走行では操舵の切り始めを穏やかにすればロールは滑らかに立ち上がり、車体は水平を保ちやすい。

 さらにスロットル操作。たとえば高速道路のうねりで車体が浮く瞬間、アクセルを微調整することでピッチを整えられる。加速と減速のGを連続的に受け渡すことができれば、車体は驚くほど安定する。たとえばマツダの”Gベクタリング”など、電子制御によってフラットライドを訴求している例もある。

 予測運転も不可欠だろう。段差の直前で慌てて減速すればサスペンションは縮み切って衝撃を吸収できない。事前に減速を終えることで、サスペンションが自由に動けるストロークに余裕を与える。

 プロが実践しているのは特別な技術ではなく、「路面を読んで備える準備の質」と言えるものでもある。

フラットライドを生む車両と運転操作との調和

 フラットライドはカタログのスペック表に記される数値ではない。設計思想と構造、そしてドライバーの操作が調和したときに初めて現れる現象を言うのだ。

 自身の愛車が段差でどう動いて、ブレーキの抜き方でどう変わるのか。日々の運転でも意識してほしい。視線が安定し、路面を滑るように進む瞬間が訪れたなら、それはクルマと対話できている証拠だ。

 それを「行いやすい」と感じるクルマかどうかも選択上の大きな見分け方に通じる。試乗が叶わず、カタログデータだけでクルマを購入しなければならないこともある現代では、我々プロドライバーのインプレッションを参考にしてもらう必要性があるのだ。

 フラットライドを実現するドライビングとは力でねじ伏せることではなく、物理法則を理解し、自然の法則のなかでクルマの動きをドライバーが中心となって調和させる。それを行いやすい車両設計があって成せることなのだ。

講師 中谷明彦

 全日本F3000/ツーリングカー選手権などでの優勝、ル・マン24時間をはじめとした海外レースでも活躍するなど経験/実績豊富なレーサーであり、理論派モータージャーナリスト。新車やタイヤの開発にもかかわり、4WD車や電子制御による車両運動性能の解析を得意分野とする。ドライビングアカデミー「中谷塾」を主宰し、現インディカードライバー・佐藤琢磨らを輩出している

※本記事は雑誌「CARトップ2026年5月号」の記事を再構成して掲載しています


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中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2026-2027日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
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海外巡り
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