この記事をまとめると
■ポルシェはタイカンGTSにPDKの変速感をソフトウェアで再現する「E-Shift」を設定
■トルクを一瞬だけ落とすことで実際にシフトしたような蹴り出し感を演出
■速さを高める装備ではなくEVの運転に情感や楽しさを加えることが狙い
触覚・視覚・音響によってシフトを再現
EVで強みのひとつといえるのが、加速のシームレスさだろう。アクセルを踏んだ瞬間から最大トルクが立ち上がり、変速の途切れを一切挟まず怒涛のように加速が続くのは、内燃機関で得ることが難しい体験だ。一方で、そこに伴う情感が乏しいという意見は強く、とくにスポーツモデルにおいては各メーカーが疑似シフトや疑似エンジンサウンドといったギミックを投入している。
ポルシェもまた、「E-Shift」と名付けられたデバイスをタイカンに投入した。そのコンセプトは明快で、加速性能には一切手を加えず、変速という行為を仮想的に再現することでドライバーの感情的な関与を高めるというものだ。つまり、「速くなるオプション」ではなく「運転がより楽しくなるオプション」という割り切りがそこにはある。
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技術的なアプローチに注目しよう。E-Shiftは完全にソフトウェアで実現されている。開発者たちはポルシェのDCTであるPDKの8速相当をコードで書き起こし、車両のコントロールユニット内でリアルに再現した。シフトタイミング、ブレーキ時のダウンシフト、メカニカルギヤ特有の振動といった特性がすべて再現してみせたのだ。
変速時、システムはほんの一瞬だけ駆動トルクを低下させてから即座に復元する。この「蹴り出し感」がドライバーへの触覚フィードバックとなり、シフトチェンジを体感させる。全体的な加速度はほとんど変わらないが、運転していると「確かにシフトした」と感じるわけだ。
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E-Shiftは、ステアリングスイッチで起動後、パドルで任意のタイミングにシフトするか、自動変速を選ぶかを選択できる。変速の瞬間にはメーター上でタコメーターが最大7500rpmまで高まる様子が視覚的に示され、既存のポルシェ・エレクトリック・スポーツ・サウンドを拡張した新しいサウンドコンセプトが仮想エンジン回転数・負荷・車速に応じて変化する。
とくに興味深いのが、タイカンがリヤアクスルにもつ実際の2速ミッションとの連携だ。仮想2速から仮想3速への切り替えタイミングを、この機械的な実際の変速と意図的に一致させてある。つまりE-Shiftの作動中、ドライバーにはバーチャルな変速が8回起きているように感じさせながら、その一点だけは「アルな機械変速を経験させるという設計になっている。デジタルと物理的なパワートレインの要素が見えない形でブレンドするという新たな試みなのだ。
E-Shiftがオフのときは、パドルはEVの回生ブレーキを2段階で調節する通常機能に戻り、両パドル同時引きで瞬間的な出力ブーストを得る「プッシュ・トゥ・パス」も作動させることができる。
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各メーカーにおいて、EVでシフト感覚を再現しようとするアプローチはいくつも登場している。ポルシェのE-Shiftが一線を画すのは「性能に寄与しない」という潔い割り切りと、メカニカルな変則との連携だ。速さは変わらないが運転が楽しくなるというオプションにどこまで価値を見出すかは、最終的にドライバー個人の哲学に委ねられているだろう。