事故時にドアが開けられない恐怖! 先進的EVの象徴「格納式ドアハンドル」に規制の流れ (2/2ページ)

中国の法律は世界の自動車市場にも影響大

<世界でも広がる「開かないドア」への警戒>

 同様の懸念は中国だけにとどまらない。米国家道路交通安全局(NHTSA)は2025年9月15日、2021年型テスラ「モデルY」約17万4290台を対象に予備調査を開始した。原因は12Vの補機バッテリー電圧低下で電動ハンドルが作動しなくなるとの申告で、車外から再び車内に入れなくなる事例が報告されている。この問題を巡っては2025年11月に2件の申立てが提出され、「個別の欠陥調査」は却下されたが、「新たな安全基準を作るべきだ」という請願は受理され、規則制定手続きに進むことになった。

 欧州では政府規制とは別に、第三者評価機関のユーロNCAPが衝突後の救助性を評価している。2026年の評価プロトコルでは、衝突後も電動式の外側ドアハンドルが作動可能であることなど、ポストクラッシュセーフティーの要件が強化された。

 ポイントは、電力を失った状態でも、車外と車内のいずれからも機械的にドアを開けられ、緊急時に操作方法や操作箇所を容易に把握できる構造を確保することにある。電動で展開・解除するだけで、電源喪失時に機械的に操作できる外側ハンドルを備えない構造は、そのままでは適合や高評価が得にくくなる。

 格納式ハンドルでは、電源喪失や機構の故障、衝突によるドア周辺の変形などが起きた場合、通常時とは異なる操作が必要になったり、操作しにくくなったりする可能性がある。車内に機械式の非常用レバーが備わっていても、通常のスイッチと位置や操作方法が異なれば、乗員が混乱するおそれもある。新基準は、平常時の利便性だけでなく、異常時にも人が容易に操作できることを求めているのだ。

<格納式ドアハンドルはこのまま消えるのか>

 では、格納式という意匠そのものが世界から消えるのだろうか?

 たしかに中国市場の規制強化は、グローバルに車両を展開するメーカーにとって無視できない影響をもつ。中国は世界最大級のEV市場であり、EVの開発・生産拠点としても重要な位置を占めており、中国向けに設計変更を行う場合、その設計思想が他地域向けのモデルにも波及する可能性は十分に考えられる。しかし、それは格納式という意匠自体の淘汰を意味するわけではない。中国の新規格が求めているのは機構の禁止ではなく、機械式バックアップと、それを乗員が容易に識別できることの両立だからだ。

 テスラの大規模リコールが示すように、機構さえ備えていれば十分というわけではなく、内装と同化して見つけにくいような配置・色ではなく、見分けやすいことまで満たさなければ、規制の要求水準には届かない。今後は、格納式というデザインそのものよりも、電源喪失や衝突後にも機械的に操作できる冗長性をどう組み込むかが重要になりそうだ。次に新型EVを選ぶ際、見た目の先進性だけでなく、いざというときに誰もが迷わずドアを開けられる仕組みになっているかどうかにも関心をもち、確認してみてほしい。


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