【開発者に直撃】新型カムリはTNGAで全面新設計「快適性を損なうことなく操縦安定性も両立」

カムリが一番に求められる乗り心地を追求しつつ運動性も向上

 アメリカでは2002〜2016年の15年連続で乗用車販売台数ナンバー1を獲得しているトヨタのFFミドルクラスセダン「カムリ」。7月10日に発売された新型8代目は「セダンの復権」を掲げ、TNGA(トヨタ・ニューグローバルアーキテクチャー)に基づき徹底して低重心化され、内外装のみならず運動性能も徹底的に磨き上げられている。

 同日に東京・青海のメガウェブで開催された発表会では、敷地内の常設試乗コース「ライドワン」で試乗する機会が設けられ、石畳路の270°ターンやゼブラ塗装のS字など様々な路面・コーナーが組み合わされた道をフラットかつ軽快、しかも安定して駆け抜けることができた。

 先代よりもさらに高い次元で乗り心地と操縦安定性が両立された、新型カムリの「走り」を支える技術とは? シャシーの設計を担当した、トヨタ自動車 MSシャシー設計部 第3シャシー設計室 主幹の本間裕二(ほんまゆうじ)さんに直撃インタビューを行った。

−−新型カムリに試乗して、乗り心地とハンドリングのバランスが非常にいいと感じましたが、開発のうえではどういう乗り味を目指しましたか?

本間:ありがとうございます。やはりカムリにもっとも求められるのは快適性、乗り心地ですが、操縦安定性と乗り心地は相反するものです。ですが今回、フルTNGAということで一からすべて設計できたおかげで、それらを高次元で両立することができました。

−−操縦安定性と乗り心地を両立するうえでキモとなった技術は?

本間:まずフロントサスペンションはストラット式で、すべて新設計しました。一番のポイントはキャスター角を増やし、ストラットのタイヤを回転させるベアリングを、キングピン軸と同軸に配置しました。そしてダンパーに、新開発した構造のバルブを採用しています。

 リヤサスペンションは先代のストラット式からダブルウイッシュボーン式になりましたが、これによって対地キャンバー角をリニアな特性にできました。また、リヤのしっかり感を出すため、各部品の高剛性化を図っています。ダンパーはフロントと同じく、新開発のバルブを搭載しました。

 従来はコラムアシスト式EPS(電動パワーステアリング)だったステアリングはラック平行式にして、ダイレクトなフィーリングを得られるようにしています。

 さらに、サスペンションを一から設計し、より適正なジオメトリーを取れるようになったことで、乗り心地で競合車を大幅に上まわることができました。

−−前後ダンパーに採用された新開発のバルブとは?

本間:微低速領域では減衰力を高め、走り出しのフラット感を高めピッチングを抑えています。逆にピストンスピードが速い領域では減衰力を下げることで、操縦安定性と乗り心地を両立させました。

 これは、オイルの流路に穴を二つ設けることで、二段階の減衰力特性が得られる「二段階開閉式バルブ」を用いることで実現しました。具体的には、一段階目のみ開く微低速域ではオイルの流路が狭いため減衰力が高く、ピストンスピードが速くなりオイルの流量が多くなると二段階目も開き、オイルが流れやすくなり減衰力も下がります。

−−石畳路の270°ターンをクリアしても振動が非常に少ないことに驚かされました。

本間:それは、サスペンション摩擦を世界トップレベルまで低減した効果が大きいでしょう。これによって、路面からの入力をしっかりいなせるようになっています。

−−どのようにして摩擦を低減したのですか?

本間:一つは、サスペンションを新設計して摩擦を減らせるジオメトリーを取ったこと。二つ目は、サスペンションブッシュのねじりが少なくなるよう部品設計したことによります。

−−セッティングのバリエーションは?

本間:日本は標準仕様だけですが、アメリカ向けにはスポーツ仕様のセッティングがあります。ただし、同じ標準仕様のなかでも車重の違いに応じて若干変更していますが、狙っている方向性は同じです。なお、日本仕様のタイヤサイズは16、17、18インチの3種類ありますが、スプリングやダンパーのセッティングは変更していません。

−−先代カムリでは個人タクシー需要が非常に高く、後席を含めた乗り心地の良さとキビキビしたハンドリングが求められたと思いますが、新型の開発ではテーマのなかに含まれていましたか?

本間:はい、やはり日本では個人タクシー、アメリカではファミリーセダンとして乗られることが多いですから、当然後席の乗り心地を非常に重要視して開発しています。

−−新型カムリではスタイリングと走りを強く訴求していますが、それでも極端にドライバー寄りにはせず、どの席に乗っても快適なクルマに仕上げたということでしょうか?

本間:そうですね、スタイリングと走り、そして前後席とも快適な乗り心地を高次元で兼ね備えています。

 筆者が試乗した印象では、先代カムリもバランスのいいクルマだったが、新型ではそれがさらに一段上がったように思えた。


遠藤正賢 ENDO MASAKATSU

自動車・業界ジャーナリスト/編集

愛車
ホンダS2000(2003年式)
趣味
ゲーム
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