MT・AT・DCT・CVT! クルマのトランスミッションはなぜこんなに種類が必要? (1/2ページ)

技術の進歩でATでもダイレクトな走りが味わえるように進化

 かつてトランスミッションといえばマニュアル(MT)式かフルオートマチック(AT)しか選択肢がなかった。MTはクラッチを備えるスリーペダルが当たり前で、ギヤ段数は3〜4速。タクシーなどはコラムレバー方式を採用。僕が免許取得試験を受けた、東京鮫洲運転免許試験場の試験車もコラムレバー方式だった。乗用車では、現代に繋がるフロアレバー方式のものが主流となっていた。

 ATはといえば、トルコン方式で段数は3〜4速。AT専用免許もない時代のシェアは3割以下。なによりトルコンスリップによるエネルギーロスが大きく、燃費の悪化と加速の鈍さ、変速の遅さなどが不人気の主要因となっていた。

 だが現代では2ペダルのATがほぼ9割のシェアを獲得するなど、ユーザーの嗜好も大きく変化している。それはAT専用免許制度が設けられ免許取得がしやすくなったからだけではない。

 運転好きのクルママニアはこぞってMTを好むといわれるが、僕自身はそうではない。僕がレースをしていた時代、ツーリングカーもフォーミュラカーも3ペダルのMTが当たり前だった。しかしハイスピードでMTを正確に操作するのは大変で、ヒール&トゥは当たり前。コーナリング中の強烈なGが発生する場面でもシフト操作しなければならず、パワーステアリングも装備しないレーシングカーのドライビングは本当に大変だった。金属製のシフトレバーで手の平の皮が向け、レーシングシューズは1レースで穴が開く。ATでレースができればどんなに楽だろうと思えた。

 MTにシーケンシャルシフトが導入され、Iパターンのシフトが登場するとイージドライビングへと一気に進化し始める。シーケンシャルでドグクラッチのMTは走行中のクラッチ操作から解放され、2ペダルでドライビングに集中できた。そうなると、アクチュエーターを装備しステアリングパドルで操作するようになるのに時間はかからなかった。ラリーマシンを中心にステアリングパドル化が進み、現在ではF1マシンも2ペダルのパドルシフト方式になっている。

 一方、ATも乗用車をベースに進化する。レースカーに比べ一般的な乗用車の開発費は莫大だ。それまで安全性や耐久性に多くのコストがかけられてきたが、時代は省エネ性を強く求めATの燃費も改善されることになる。ATの進化のファーストステップは、ロックアップ機構の採用だっただろう。5速、6速と多段化するのはもちろんのこと、トルコンスリップを最小限に抑え、走行中はクラッチをロックアップしてMT車と変わらぬ走行燃費を獲得できたことが大きい。

 ATがスポーツドライビングに適さないと言われた理由のひとつに、変速レスポンスの悪さがある。1速から2速、2速から3速へと変速する過程においてタイムラグが大きく、ロックアップクラッチが外れる瞬間のエネルギーロスも問題視された。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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