計画の甘さやトラブルじゃなかった! 「Honda e」が発売前なのに注文受付を「停止」した理由

意外にも生産は順調に進んでいる!

 ホンダが日本の一般ユーザー向けに、実質的に初めてリリースするBEV(電気自動車)である「Honda e」の発売が近づいています。標準グレードで451万円、スポーティ仕立てのAdvanceグレードでは495万円と、BEVとしても高価な値付けながら、そのスタートは好調。2020年10月30日の発売を前にして、受注停止のお知らせがホームページに出ているほどです。

 まだ公道で見かける機会が非常に少ないHonda e。そのどこか懐かしいスタイリングやリヤ駆動の新開発プラットフォームといったメカニズムに魅力を感じて、予約をしようと思っても、できない状態になっているのです。その理由について巷間さまざまな噂が飛び交っています。ちょうど一年ほど前にホンダの軽自動車「N-WGN」がEPB(電子パーキングブレーキ)に関する部品の問題により生産がズレこんだりしたこともありましたし、他メーカーですがトヨタのプラグインハイブリッドカー「RAV4 PHV」ではバッテリーの調達が原因で生産が滞っているという情報もありました。

 果たしてHonda eの受注停止の理由はどのようなものなのでしょうか。今回、Honda eのメディア向け試乗会場に乗り込み、複数の関係者にその理由を聞いてみることにしました。すると、意外な答えが返ってきたのです。

 それは、「寄居工場(埼玉県)での生産はとても順調に進んでいます」というものでした。試乗会が開催されたのは横浜みなとみらいエリアだったのですが、「すぐそこの大黒ふ頭にいけば欧州向けのHonda eがジャンジャン船積みされている様子を見ることもできますよ」と続けます。

 では、なぜ故に国内販売は受注停止となっているのかといえば、それはHonda eは受注に合わせて生産するのではなく、ある程度の生産数を設定しておいて、それを上限に販売するという分譲的な仕組みを採用しているからだといいます。つまり、今回の受注停止というのは最初のロットとして想定していた台数が完売状態になっているということに過ぎないというわけです。

 そもそもHonda eの日本向け販売計画は年間1000台と量産車としてはミニマムです。それは前述したようにBEVとして考えても割高な価格設定からすると妥当といえますし、生産能力の多くをCO2排出量規制が厳しくなっている欧州に振り分けるためです。そのこと自体はビジネスとしては妥当な判断です。

 それにしても、「街なかベスト」を実現するためにステアリング切れ角を稼ぐことのできるリヤ駆動のプラットフォームを、この新型BEVのために生み出してしまうというのは非常にコストがかかる行為で、実際に感動レベルの小回り性能を体感してしまうと、価格以上の価値があると感じてしまいます。さらに前後サスペンションやステアリング系の設計により全長4m足らずの小さなクルマとは思えないほど中高速コーナーではどっしりとしたハンドリングも味わえます。こうした走りの良さを知ってしまうと、おそらく試乗することなく注文を入れたオーナーの方々の慧眼に感服です。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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スズキ・エブリイバン(DA17V・4型)/ホンダCBR1000RR-R FIREBLADE SP(SC82)
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モトブログを作ること
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