あまりの出来にレーシングドライバーが言葉を失った! 最高傑作のクルマが生み出された「秘密」とは (1/2ページ)

高級セダンのイメージが強かったクルマが驚きの走りを見せる!

 これまで数えきれないほどのクルマに乗って来た。そのキャリアを通じて、乗った瞬間にクルマの素性の良さを感じ取れるようになり、何故そのような感応性が得られているのかに興味を持つようになる。そして、これらの経験と取材を通じて、ひとつの「解」に到達することとなった。その「解」とは何か。感動を与えてくれたクルマ達と共に解説していきたい。

 E38型BMW 7シリーズ

 BMWを初めて操ったのは1980年頃。当時、まだ大学生だった僕は某自動車専門誌でアルバイトをしながらレース資金を稼いでいた。新車の広報車をメーカーから駆り出し、箱根などの山々へ走行シーンの撮影へ向かい、走行シーンの撮影用ドライバーも自分の役目だった。まだ完璧にクルマの挙動やドライビングテクニックを習得しているわけではなかったが、自分の得意課目はレースに通じる「走り」だとして走行シーンではカウンターステアを当てて走ることにこだわっていた。

 しかし国産車では、まだリヤリーフリジットサスペンションのクルマが多く、LSD(リミテッド・スリップ・デフ)を装備するモデルもなく、一般道でカウンターステアを当てて走行するのは至難の技だった。とくに電子制御装置もない当時の市販車は、どのメーカーもアンダーステアに仕上げることを主眼に置いていたので、リヤを流して走るテールスライド走法(いわゆるドリフト走行)は行いづらいセッティングになっていたから当たり前だ。ときにダート路面やウエット路面を探し、サイドブレーキを引きサイドブレーキターンをきっかけにしなければならなかった。

 そんなある日、BMW 5シリーズ(528e)に試乗することになった。当時BMW 5シリーズといえば超高級車。どちらかといえば大型な部類の高級セダンというイメージがあった。それをテールスライドさせて走らせるのは可能なのか。いざ某所で撮影に臨むと、なんと528eはターンインから極めてバランスよくヨーを発生し、アクセルコントロールを続けるとテールがリバースしだした。そのままカウンターステアを当ててスロットルを踏み込むと見事にパワースライド姿勢に移行し、カメラマンも驚くほどのかっこいいシーンが撮影できたのだ。

※同型の5シリーズ

 最初のトライから自分のイメージした通りの挙動が得られ、国産車で四苦八苦して自分のドライビングが悪いのかと悩んでいた頃でもあり、運転操作に誤りがなかったのだと確信することができた瞬間でもあった。「BMWってすごいんだな」。その実力を眼の当たりにして、単なる高級車と思っていた概念が吹っ飛びスポーツセダンとしての地位が僕のなかで確立されたのだ。

 しかし、BMWがなぜこれほど意のままに操れるクルマとして完成されているのか、その奥義に迫れたのはずっと後年のクルマとなる。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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