4WDマイスターのレーシングドライバーが乗って触って徹底解説! GRヤリスの「メカ」を斬る (1/2ページ)

パワーユニットは2リッターターボエンジンと比べても遜色ない!

 ようやくトヨタGRヤリスに試乗することができた。長く三菱自のランサーエボリューション(ランエボ)開発に関わり、とくにレースシーンでランエボの4WDシステムから速さを引き出すことに傾注してきていたので、4WDスポーツとして登場したGRヤリスには高い関心をもっていたのだ。とはいえ、今回の試乗は一般道。クローズドコースは用意されていないので、とても限界走行を試すことはできそうにない。そこで、会場に展示されている普段見ることができないカットモデルを参考に開発担当エンジニアにインタビューを行いつつ試乗の参考にすることとした。

 まずはパワーユニットから。GRヤリスに搭載されるのは1.6リッター3気筒のターボチャージドエンジンだ。そのパワースペックは最大出力が272馬力を6500回転で発生させ、最大トルクは370N・mにも及ぶ。

 最大出力280馬力自主規制時代のランエボやインプの2リッターターボエンジンクラスと比しても遜色ない数値を引き出している。1.6リッターとしたのはWRCをはじめモータースポーツシーンでのカテゴリー基準に適合させるためだろう。

 このエンジンはG16E-GTS型でヤリス1.5リッターのM15A型とは細部に渡り大きく異なっている。もっとも気になったのは直噴とポート噴射を両立するトヨタ自慢のD4システムを搭載していることだ。トヨタ86/スバルBRZもD4システムを搭載しているが、ターボ過給器と組み合わされたのは今回が初めてではないだろうか。吸排気バルブスプリングには不等ピッチで可変径の特殊形状のスプリングが採用されていて、最高回転数の7200回転域においてもバルブサージングを起こさず安定したバルブ追従性が可能になったという。また吸排気に可変バルブタイミングのVVT-iも採用していて、持てる技術をフル投入していることがわかる。

 シリンダーブロックはアルミニウム製で軽量だが、厚みのある鋳鉄製のスリーブを埋め込んだオープンデッキ方式であり、軽量化を計りつつ高出力時の剛性も確保し耐久性を高めている。後方排気でレイアウトされるターボチャージャー自体は小型で極めてオーソドックスな仕様となっている。ツインスクロールや可変A/Rなどの特殊な機構は持たない。またインコネルなどの特殊鋼も使用せず、しかし最大過給圧1.6barを安定して供給し続けることができるという。それは3気筒のシリンダーレイアウトが排気干渉を起こさず効率よくタービンを回せるからだという。あえて3気筒を選択したのは性能重視の理由からなのだ。

 次にトランスミッション。僕は勝手にDCT(デュアルクラッチトランスミッション)が選択できるのではと思っていたのだが、設定されていたのは3ペダルの6速マニュアルミッションのみだった(1.5リッターのRSグレードはこの際話の外に置く)。といってもこのミッションはヤリスの6速MTとは別物で、完全に専用設計となっている。トランスミッションは耐久性を上げるのが課題だが、GRヤリスでは1、2、3速をトリプルコーンシンクロとして強化。

 1、2速にはカーボンのシンクロを採用して軽量かつ高剛性としている。また4、5速はダブルコーンシンクロで1〜6速までギヤ歯面を加工強化していて耐久性対策は万全だ。実際に富士スピードウェイで開催された24時間レースにモリゾーこと豊田章男社長もドライバーとして参戦。ウエットコンディションに助けられたとはいえ、初参加ながら完走しクラス優勝を果たして耐久性の高さを証明している。

 エンジン+ミッションをマウントするフロントクロスメンバーはヤリス/ヤリスクロスと同じだが、リヤクロスメンバーは同じTNGAプラットフォームファミリーに属するがクラス上のGA-C(カローラやプリウスクラス)型を採用していて、見た目にもガッチリした構造をしている。

 そのリヤクロスメンバーにはトルセン方式のデファレンシャルと電子制御される電磁カップリングクラッチが搭載されている。ハイパフォーマンスグレードは前後に1WAYのトルセンLSDを装着しているが、その他のグレードはノーマルのオープンデフを装着。RCグレードはレースやジムカーナ、ラリー、ダートラなど競技に使用するベース車で、必要に応じてユーザーが好みのLSDを選択して装着させるのが狙いのようだ。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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