「キャラがモロかぶり」は素人考え! アクアとヤリスを併売するトヨタの巧妙な戦略とは (2/2ページ)

2台は棲み分けができていると考えて良い

 日産で例えると、5ナンバーボディのノートに、派生モデルとして3ナンバーサイズのノート オーラが用意されたという流れと似ているものと考えてもらいたい。

 販売現場で話を聞くと、「アクアはヤリスHEVとWTLCモード燃費を比較すると、ほんのわずかですが、燃費性能が劣っています。その代わりにEVモードでの走行距離は長くなっております。EVモードでの走行距離の長さについては、プリウスに乗られているお客様がよく気にされます。そのため、私どもでは、アクアはプリウスや、その他のアクアより大きいHEVからダウンサイズしたいといったニーズの受け皿にしたいと考えております。そのような狙いを意識したのか、ヤリスHEVよりは上質感を演出した作りとなっているものと認識しております」とセールスマンは話してくれた。

 ヤリスはガソリン車も含め、エントリーモデル(入門用)やパーソナルモデルとしてのキャラクターが強く、後席居住性や積載性がいまひとつ(狭い)という声をよく聞く。全体の質感もベーシックカーらしいものとなっており、“上質”という表現はいまひとつしっくりこない。つまり、ヤリスHEVではプリウスなどからのダウンサイザーニーズを受け止めきれないのである。ヤリスHEVは「手ごろなHEVの新車を買う」とか、“セカンドカーニーズ”、あるいは企業の営業車などのフリートユースなどで強みを見せるので、この2台の“棲み分け”ができていると考えて良いのである。これがもし、どちらか1台だけしかラインアップされていなければ、結構な数の購入見込み客を逃してしまうことになるだろう。

 日本ではコンパクトカーは人気の高いクラス。日本のみならず、世界的に見ても人気のあるカテゴリーほど、緻密で多彩なモデルラインアップとし、各メーカーはお客の取りこぼしをしないようにしているのである。

 新型アクアが、ノート オーラのように3ナンバーサイズとなり、装備内容を豪華にするなどすれば、もっとわかりやすいのだが、3ナンバー化や極端な上質化を実行すると、今度はプリウスとキャラが被ってきてしまうので、そのあたりはHEVラインアップの多いトヨタならではの悩ましい部分ともいえ、アクアは5ナンバーのまま次期型を開発することになったのだろう。

 前出のセールスマンは、「こちらからは積極的に、『こちら(ヤリスHEVかアクアか)がいいですよ』といったアプローチは控えるようにしております。ひととおりの商品説明や、見積りなどの試算を行ったうえで、最終決定はお客様に託すようにしております」と話してくれた。

 また前述したが、ヤリスの前身となるヴィッツはネッツの専売(じつはヤリスも2020年5月まではネッツの専売であった)であったので、ネッツ以外のトヨタ、トヨペット、カローラ各店は、先代からアクアなら扱っているので、売り慣れているようである。「ヴィッツは扱っていなかったこともあり、ヤリスを扱うようになっても、いまひとつ売りにくさを感じております」とは、ネッツ店以外のトヨタ系正規ディーラーセールスマン。

 いずれにしろ、似たようなキャラクターで2台用意しておけば、いずれかに決まる(契約がもらえる)だろうし、他メーカーライバル車へ流れることを防ぐ効果も期待できるというのも現実的な話といっていいだろう。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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