もはやSFのような見た目もなんと実走可能なクルマだった! マセラティ・ブーメランという衝撃作の正体 (2/2ページ)

斬新なのは外観だけではなくインテリアも独創的

 ボディは軽量なアルミニウム製で、ジウジアーロが描いたシルエットは強いウエッジシェイプを特徴とするものだった。ボディパネルとウインドウは、基本的には平面で構成されており、サイドウインドウを二分割し、その中央にウエストラインを走らせるという手法も、当時としてはきわめて斬新な手法だった。

 そして、1971年のトリノショーから約1年後、ブーメランは実走可能なワンオフモデルとしてジュネーブショーに再び姿を現し、会場を訪れたゲストはもちろんのこと、世界のカーマニアに大きな衝撃を与えたのだった。

 ブーメランのデザインは、インテリアでも実に先進的なフィニッシュを見せていた。特に印象的なのはステアリングホイールまわりのデザインで、メーター類やウインカー、そしていくつかのウォーニングランプは、すべてステアリングホイールのリムの内側にレイアウト。これは高速走行時にもできるだけ視線を移動させないようにという考えから生まれたデザイン。メーターパネルのセンターには大径のタコメーターが備わっている。

 外観からも分かるとおり、ブーメランのフロントウインドウは極端に強い傾斜を持つが、アポロ宇宙船のそれから流用されたというシートに身を委ねると、そこにはスーパースポーツとして十分に快適な2シーターのキャビンがあることが分かる。

 ブーメランはその後、いくつかのモーターショーに展示され、最終的にスペインのカスタマーに販売された。その後も何人かのオーナーの手をわたるが、1980年代には完全なレストレーションを受け、コンクールデレガンスにも姿を現すようになった。フロントフード上のマセラティとイタルデザインのエンブレムはレストアの過程で失われてしまっているが、そのほかはカラーリングや1990年の「バガテル・コンクールデレガンスでジウジアーロ本人から書き入れられたリヤライセンスプレートの位置にあるオートグラフも含め、オリジナルの状態を保っている。

 改めて考えてみれば、この実走可能なブーメランが発表されてから、2022年はちょうど50年にあたる年。現在のマセラティはMC20やグレカーレなどのニューモデルの登場で、過去にないほどの話題に満ちている。ブーメランが世界の目を強く引き寄せ、いまでもその存在を熱く語られるように、現代のマセラティもまた、歴史的な成功を収めてもらいたいものである。


山崎元裕 YAMAZAKI MOTOHIRO

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 /WCOTY(世界カーオブザイヤー)選考委員/ボッシュ・CDR(クラッシュ・データー・リトリーバル)

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ
趣味
突然思いついて出かける「乗り鉄」
好きな有名人
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