【試乗】フルかマイルドか……悩ましいルノー・アルカナ選び! 街なか・高速道路・ワインディングで走って徹底比較してみた (2/2ページ)

高速道路・ワインディングでマイルドハイブリッドの魅力が光る

 高速道路にすべり込むと、E-TECHフルハイブリッドがかなり賢い仕組みであることが実感できる。この速度域では内燃エンジンでの走行が基本となるのだが、気づくとエンジンが停止してモーターだけで走っていたり、エンジンが電気を供給しながらモーター走行していたり、モーターとエンジンの両方が生み出す力を路面に送っていたりを絶え間なく繰り返している。

 しかもエンジン側で4つ、メインモーターでふたつのギヤによる合計12のギヤ比を忙しく切り換えながら走ってるはずなのに、ときおり変速感を感じることがありはするものの、その作動は素晴らしくスムースだ。音楽を流していたり隣に座る人と会話したりしながら走っていたら、複雑な機構を持ってることなんてすっかり忘れてしまうことだろう。

 しかも、追い越しや登り勾配などで、必要とあらばまったく不足のない力強さを瞬時に引き出せるのだ。ヨーロッパ、とくにフランスでは、長らく小排気量のディーゼルターボが市井の人たちのクルマとして主役級の存在となっていた。街なかで扱いやすい低速トルクを持ち、高速巡航でも力強さを発揮するうえにロングクルージングのときの省燃費性にも優れている、というのがその理由。それに代わるパワートレインとして開発されたのがE-TECHフルハイブリッドだ、ということがよくわかる。

 マイルドハイブリッドのほうはどうかといえば、最初に思い浮かぶ言葉は、”爽快”だ。この速度域でもエンジンは気持ちよくまわり、パワーもトルクも充分。誰もが想像するより、ドライバーは余裕たっぷりな気分だ。モーターの存在感はここでもそれほど大きくはないが、力が必要になってアクセルペダルを踏み増しすれば、エンジンがしっかりと速度を伸ばしてくれる。パドルでシフトダウンして加速体勢に入ればなおのこと。バカっ速というわけではないが、高まるサウンドとともにスピードは気持ちよく伸びていく。走らせていて楽しい。

 そしてこの場面でも、いや、この場面ではさらにというべきか、コースティングの働きっぷりをありありと感じさせてくれるのだ。たとえば100km/hまで加速してアクセルペダルと戻すと、エンジンはストップしてるのに、1km/h、また1km/hとジワジワとスピードを落としていきはするものの、予想以上に長い時間と距離、その速度域をキープしようとする。その空走時の滑るような感覚に楽しささえ覚えてしまうほどだ。

 ちなみに燃費に関しては、E-TECHフルハイブリッドが街なかで20.6km/L、高速道路では24.4km/L。マイルドハイブリッドは街なかで17.1km/L、高速道路では何とE-TECHフルハイブリッドをしのぐ24.8km/Lをマークした。ただし、高速道路の走行環境として、E-TECフルハイブリッドはどちらかといえば登り勾配が多く、周囲にクルマも多く加減速を強いられがちで、マイルドハイブリッドは交通量にペースを乱されることがなく緩く長い下り勾配で制限速度をキープするために結果的にコースティングを多用する場面が多かった、ということは記しておくべきだろう。

 どっちの場面も気合いを入れて省燃費走行をすれば数値を伸ばすことはラクラクできることは自明の理で、とくにE-TECHフルハイブリッドはもっと数字が伸びる余地がたっぷりあったのだけど、それでもこの車格でこれだけ走ってくれれば十分でしょ? という数値ではあると思う。

 けれど、アルカナが燃費だけのクルマだと思ったら、それは大間違いだ。E-TECHフルハイブリッドもマイルドハイブリッドも、背の高いSUVだというのに、ワインディングロードが楽しいクルマに仕立て上げられてるのだから。

 どちらもフロントがグイグイとイン側に気持ちよく入っていき、しっかりと路面を踏みしめるリヤ側が遅れずについてくるようなフィールは共通してるのだが、あえて違いを言葉にするなら、E-TECHフルハイブリッドは腰の据わった感じで旋回してどこからでも力強く加速する印象。マイルドハイブリッドは軽快に身を翻しながら曲がってエンジンの回転を高めながら軽やかに速度を伸ばしていく印象。

 どちらもステアリングは正確で、荷重も移しやすく、ねらった走行ラインに乗せやすい。フットワークはかなり良好、といっていいだろう。足がしっかり伸び縮みしてタイヤを路面にしっかりと接地させ、それがハンドリングのよさと乗り心地のよさを作ってる、というルノーらしさも活きている。

 変速パドルで積極的にギヤを選んで3500rpmあたりを越えてからのパワーの盛り上がり感を楽しめるマイルドハイブリッドのほうが、このステージでは光ったかな、と感じるところはあったけれど。

 でも、どっちがいいとか悪いとかそういうことじゃなくて、要はどっちが好み? というお話だ。これまたあえて言葉にするならというところだけど、E-TECHフルハイブリッドは街から高速で気持ちよさが色濃いグランツーリスモ的な性格、マイルドハイブリッドはあらゆる場面で軽快に走りたい人に向いたよりスポーティな性格、といったところだろうか。

 いずれにしてもアルカナが見た目もさることながらそれ以上に魅力的なところのあるモデルだということは揺らぎようのない事実だ、と僕は痛感させられている。


嶋田智之 SHIMADA TOMOYUKI

2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
2001年式アルファロメオ166/1970年式フィアット500L
趣味
クルマで走ること、本を読むこと
好きな有名人
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