【試乗】見て触って乗っての結論……これでいいじゃん! ヒョンデKONAは穿った目で見ても粗らしい粗が見つからないクルマだった (2/2ページ)

いまBEVを選ぶならこれが「ベストバイ」

 仕向地によってはICE搭載モデルも用意されるコナではあるが、日本に導入されるのはバッテリーEVモデルのみ。48.6kWh仕様と64.8kWhが用意されているが、48.6kWh仕様は受注生産なので、事実上、主力となるのは64.8kWh仕様ということになるのだろう。

 48.6kWh仕様のみ価格が399.3万円と400万円を下まわっていて、そちらでも航続距離は456kmと良好なレベルにあるし、パワーとトルクも135馬力に255Nmと、落胆するようなものではない。けれど、装備やトリムの違いで3グレードが用意される64.8kWh仕様も452.1万〜489.5万円と、この手のバッテリーEVにしては十分にリーズナブル。

 いずれもパワーとトルクは204馬力に255Nmとゆとりがあるし、航続距離も541〜625kmとたっぷりしてる。なかなか日常的に1日200kmとか300kmの距離を走ることのない人のほうが圧倒多数だと思うけど、ここのゆとりを求める気持ちはわかるから、やはりチョイスすべきは64.8kWh仕様ということになるだろう。

 今回の試乗車はもちろん64.8kWh仕様で、航続距離541kmのモデルだった。

 パワートレインはなかなか洗練されている。加速性能それ自体は、基本、このクラスのバッテリーEVとしてはしっかり力強いといえる水準にある。数字から想像するよりあきらかにパフォーマンスは高く、じつに気持ちよくスピードを積み上げていってくれる。けれど、たとえば発進や微速域などでは、アクセルペダルの操作に対して敏感に反応しすぎたりはせず、滑らかに柔軟に、気づかいなしに穏やかに走ることができる。出足がよすぎてギクシャクしたりすることがないのだ。

 どうやらその領域でのトルクの発生を意図的に抑えてるようだ。逆にワインディングロードなどで元気に走りたいときには、ちょっとしたホットハッチを走らせてるような感覚でスポーティなテイストを楽しむことができる。走行モードをスポーツに切り換えると反応がよりダイレクトになるから、さらに楽しい。そういう走り方も苦手ではない。それらが無理なく同居していて、シームレスに働いてくれる印象。いかなるときも違和感のようなものがないのだ。

 曲がり方も同様だ。ステアリング操作に対するクルマの動きがとても素直で、スッと切り込んでいくと車体が遅れなく向きを変えて、行きたい方向へ向かおうとする。そこには過敏さもなければ鈍さもない。とても自然なのだ。バッテリーEVならではの低重心がハンドリングとコーナリング性能の高さのベースにあるのは間違いないのだけど、それを活かしながら丁寧に作り込んできたような印象。ワインディングロードを元気に走らせても、無理なくそつなく、気もちよく曲がる楽しさを感じさせてくれる。

 スポーツモデルじゃないから限界領域に挑戦するような仕立てにはなってないけれど、元気よく走りたい気持ちもしっかり受けとめてくれる包容力のようなものはもちあわせている。しかも、それをこれ見よがしに主張してきたりすることはなく、繰り返しになるけれど、とても自然なのだ。

 乗り心地も快適といえる部類だし、室内の居住性も上々だし、荷室も使いやすいし、視界も良好だし、ADASも十分以上に優秀だし、ARナビゲーションも便利だし……。そう、クルマとしての基本的な部分はすべて高いレベルにあって、粗らしい粗が見当たらない。

 僕たちは職業柄、鵜の目鷹の目で穿った視線でクルマを見つめてこんなふうに屁理屈を捏ねるわけだけど、普通にクルマを見てシートに座って走ってみると、何か引っ掛かることも不満に思えるところもなく、当たり前のように「いいクルマだなぁ……」と感じられることだろう。しかもしかもコスパはかなりいい。「これでいいじゃん!」である。そういうクルマって、じつはたくさんありそうでそうあるものでもない。

 あとはアクが強いというか個性が強いというか、このスタイリングが好きになれるかどうか。その点だけだろう。僕たち世代のオッサンは感覚が古いから尻込みする人も少なくないだろうけど、感覚がフレッシュにして柔軟な若い人は、なんの抵抗もなくスルッと受け入れられるのかもしれない。

 CEV補助金などを加味すると、もっとも高額なグレードでも425万円程度。何だかやたらと説得力が高いクルマなのだ。


嶋田智之 SHIMADA TOMOYUKI

2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
2001年式アルファロメオ166/1970年式フィアット500L
趣味
クルマで走ること、本を読むこと
好きな有名人
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