ブーストボタンを押せば31馬力の出力アップ!
ドライブモードはECON、NORMAL、CITY、SPORTを備える。CITYではアクセルオフ時の回生が強まり、ワンペダル感覚が強くなる。市街地ではアクセルとブレーキの踏み替え回数を減らせるため、扱いやすい。ECONではさらに出力特性が穏やかになり、航続距離重視の制御へと変わる。メーター表示によると、96%充電時の航続可能距離はNORMALで203km、CITYで203km、ECONで216km、SPORTでは202km表示だった。因みに満充電時のWLTCモード航続距離は275kmだ。

SPORTへ切り替えた瞬間、このクルマの性格が変わる。室内では低音の効いた仮想のエンジンサウンドが流れ、7速を仮想したシフト制御も作動。3連メーター表示に切り替えた際には仮想エンジンの回転計が表示される。さらにブーストモードを選択すると、最高出力は70kWへ上昇する。ステアリング左右にはパドルシフトも備わり、左パドルでシフトダウン、右パドルでシフトアップを演出。減速Gや加速感まで含め、7速DCT車のような感覚を再現している。

興味深いのは、その演出方向だ。ホンダらしい高回転型スポーツエンジンではなく、大排気量V8のような低中速トルク型の味付けになっている。実際に走らせると、V8+ATのアメリカンマッスルカーを思わせるようなトルクフルで重厚な加速感がある。もちろん実際の速度域は法定速度内だが、トルク感や変速演出によるG変化が加わることで、体感速度は十分高く感じる。

一方で、このクルマに速さそのものを求めてはいけないとも感じさせられた。ブーストモード時でも70kW、約95馬力相当であり、最大トルクは162Nmで変わらない。高回転まで最大トルクを持続させることを可能としたものだ。絶対的な速さを競うクルマではない。むしろ、軽量な1090kgのボディと電動トルクのピックアップのよさ、そして仮想シフトやサウンドを組み合わせ、速度域を問わず運転そのものを楽しませる方向へ振っているわけだ。

サーキットへもち込めば、速くはないが一定のポテンシャルは見せるだろう。筑波のコース1000やミニサーキットなら十分遊べるはず。しかし、19.5kWhのバッテリー容量でスポーツ走行を続ければ、電力消費は大きい。サーキットで全開走行すれば、満充電でも30分もたないのでは、とエンジニア氏は語る。そもそもサーキットを全開で走りまわる前提のようなヒュンダイ・アイオニック5Nなどとは性格が違うのだ。
ブレーキはフロント/ディスク、リヤ/ドラム。回生ブレーキを積極的に使う制御のため摩擦ブレーキへの負担は比較的小さい構成だ。

このSuper-ONEは、シティターボII ブルドッグを知る世代に向けた懐古主義だけのモデルではない。当時を知る50〜60代に加え、若い世代とも共有できる現代的なスポーツEVとして成立させることを狙っている。
かつてのブルドッグは、危うさも含めて異端児的な魅力をもっていた。しかし、Super-ONEは違う。暴れない。破綻しない。静かで上質で、しかも遊び心がある。そこに現代のホンダらしさがある。
速さを追い求めるクルマではない。しかし、走らせることそのものを楽しませてくれるEVとして非常に完成度も満足度も高い1台だった。
