消滅した日はスバリストの暗黒日! 51年間「RR」「4独サス」「キャブオーバー」を貫いた軽トラ&軽バンの金字塔「サンバー」とは (2/3ページ)

「アプライドによってクルマが激変」の傾向はすでに始まっていた

 2代目「ニューサンバー」は、フルモデルチェンジながら搭載エンジンなどのメカニズムは初代モデルからのキャリーオーバーが多いものの、初代のユーザーから届いた要望や指摘を反映し、使い勝手の面ではかなり大幅な改良が施された。ミッションは副変速機付きが選べるようになり、走行性能も大きく進化。途中から4速化されたこともあり、初代では80~85km/hだった最高速度は95km/hまで向上している。

 百瀬晋六さんの考えとして訓示された「要改善箇所は直ちに対処して商品に反映する」との姿勢により、サンバーも初代モデルから改良される頻度が高く、2代目モデルも常に積極的な改良を実施し続けたようだ。今のSUBARU車も「アプライド違いでクルマが激変する」ことで有名だが、その傾向は1960年代からすでに始まっていたのだ。

 2代目の中期型はフロントドアが後ろ開きとなるのをはじめ変更箇所が多く、また「ババーンサンバー」と愛称も変わることから、サンバーマニアの間では「3代目」と認識されることもあるなど、この頃からサンバーは世代ごとのモデルの識別が難しくなる。後期型は「ストロングサンバー」と呼ばれ、世代違いのモデルとして扱われることもあるからややこしい。次世代「剛力サンバー」以降はさらに複雑化する。

 また、2代目のバンはファミリーユースで選ばれることも増え、充実装備のデラックスグレードは「スーパーデラックス」に進化した。灰皿が装備されたり、助手席の足もとに大きなスピーカーが設置されるなど、内装にも乗用車向け装備の充実が目立つ。インパネ中央部にそびえる六連星が誇らしげに設置された。

 とあるマニアが所有する1968年式の「スーパーデラックス」に試乗すると、まずはステアリングの軽さと操舵フィールの上質さに驚愕させられる。ノンパワーアシストのラック&ピニオン式ながら、まるで昔の高級車が採用したリサーキュレーティング式かと思ってしまうほど、しっとりと滑らかな手応え。軽バンながらお金がかかっていることがわかる。ギヤ比は22.5対1なので、普通に曲がるだけでも操舵量は多く、いつまでもクルクル回る感覚がバスのようで新鮮だ。

 3速+オーバートップギア付きの4速MTはフルシンクロで、コツさえ掴めばダブルクラッチを使わずとも普通に変速できる。圧巻なのは乗り心地の良さ。たっぷりとしたホイールストローク感により、路面の凹凸を見事に吸収。初代モデルから「悪路でも豆腐の角が崩れない」と絶賛された優しい乗り心地は健在で、「荷室の卵が割れない」と評されたシトロエンの2CVにもたぶん負けてない足さばきの巧みさは衝撃的だった。駆動メカが後ろに集中しているので空冷2気筒でも静粛性が高く、床下エンジンの現代の軽ワンボックスよりもむしろ静かではないかと思えたほど。

 クーラーはなくとも、フロントマスクの真ん中から走行風を取り込むラリーカーのようなベンチレーションシステムは存外に効果的で、真夏の炎天下の中でも走ってさえいればギリギリ我慢できるとのことだ。低速トルクが細すぎて発進時は気を遣うが、走り出せば存外に活発。慣れれば現代でも足グルマとして普通に使えそう。誇張抜きに大人4人がゆったり座れるパッケージングにも感動させられる。

 2代目はトラックも正常進化的なフルモデルチェンジを受け、初代の美点を継承しながら細部を改良。高性能と優れた耐久性で定評のあるサンバートラックは世間に完全に浸透したという。フルキャブレイアウトならではの強みはさらに磨かれた印象で、相変わらず荷台が極めてフラットな上スペースが広く、荷床高も低いので大変便利に使えそう。「3方開き」と「1方開き」があるから用途に応じて使い分けられた。

「サンバーがあれば商売で有利」とサンバーの強みを全面に押し出した広告が目立ち、サンバーの性能に自信を抱いていたのがわかる。外観は印象的なフロントマスクを採用した初代モデルと比べると個性が弱まった気がするが、2代目は機能性をより徹底的に追求した結果のデザインであることが細部をみれば明らか。ボディ四隅の雨どいの配置などに繊細な配慮がなされていることがわかるのだ。乗降時に乗員の体が少しでも雨に濡れにくくするための工夫も立派な性能である。

 エンジンルームを見ると、この世代はまだ補器類が少なくシンプル。リヤに積まれるエンジンは意外と整備性が良いこともサンバーの美点のひとつで、プラグの点検やチェックも簡単に行えた。また空冷2気筒時代のユニットはエンジンの単体重量が軽いため、ユニットごと降ろす作業も比較的容易にできたという。ただし空冷エンジンは空冷フィンがかさ張ったり暖房を利かせにくいなどデメリットも少なくない。

 外観は、泥除けがタイヤの後ろ側だけでなく、前側にも付いているのが印象的。60年代当時はまだ未舗装路が多く、大きな水たまりも多かったため前に泥を飛ばさないための工夫や配慮が求められたのだ。

 基本的にエンジンの冷却が難しくなるなど、RRには難点も少なくない。のちに水冷化してからもラジエターとエンジンの距離が遠く、冬場は温まるのが遅く暖房が効くまで時間がかかったという。

 ところで、歴代サンバーが最後まで守り続けた伝統のひとつとして、デザインコンセプトに「堅牢感」を強調するというのがある。見るからに強くてたくましく、過酷な用途にも耐えて長く使い続けられそうな印象をユーザーに抱かせることを重視しているという。

 そこで3世代目モデルは「剛力サンバー」と呼ばれ、これまで以上にタフに使い尽くせる軽バン/トラックとして生まれ変わった。当時のカタログには大きな鹿がツノでバーベルを持ち上げるイラストが描かれ、パワーアップした感をわかりやすく強調。「サンバー」の名は体長がゆうに2mを越す東南アジア最大級のインド原産の鹿からとったもので、剛力サンバーでは久しぶりに鹿のイメージで強さを訴求したのだった。

 さらに持ち前の悪路走破性能や登坂能力の高さをアピールすべく、大量の荷物を積んだサンバートラックが岩だらけの山岳路を激走するシーンの写真も大きく掲載。まるでランクルかジープのカタログのような雰囲気が演出されたが、それだけ剛力サンバーの屈強な性能には自信があったことがうかがえる。

 メカニズム面のハイライトは多く、まず初期モデルからエンジンを水冷化。エンジン内部の冷却が均一化され、静粛性も向上。エンジンに付けられていた空冷のためのフィンが不要になり、エンジンルーム内の空間効率が高くなった。さらに4サイクル化や排気量の500、550cc化もはかられ、サンバーは矢継ぎ早に高性能化が進んでいく。

 カタログや広告では名前の由来である大鹿のほか、貴乃花(初代)やアメフト選手なども起用し、いかにも強くてたくましいキャラクターイメージを高める戦略を展開。500cc搭載車はサンバーファイブと呼ばれた。2mを超える大きな荷台床面長を誇る3方開きなど持ち前の強みをさらに徹底訴求。新規格に合わせた500ccエンジンはSOHCで低燃費にも優れるなど、経済性も高さも積極的にアピールした

 初期モデルが「剛力」として生まれた3代目モデルは、歴代サンバーのなかでもっとも激動の世代だったといえる。76年の時点では新規格に合わせきれなかったことで中途半端な状態でもあった500ccエンジンを550ccとし、ボディサイズも満を持して新規格へ拡大。さらに、待望されたハイルーフボディを採用。荷室高は1435mmまで拡大し、商用はもちろんレジャー用途でも大きな利便性をもたらし大好評となる。

 さらにライバルに差をつける決定打として、四輪駆動もついに導入。軽バン/トラック初の設定で、業界トップシェアを誇るパイオニアらしい攻めの商品展開を加速する。70年代になるとレオーネから始まった乗用車でも四輪駆動はアリとのイメージが徐々に浸透し、SUBARUの軽バン/トラックが四駆を採用するのは自然な流れと見られた。走破性のさらなる向上に加え、安全性の高さも強くアピールしていく。

 また、四輪駆動化にあたりホイールのリム構造を変更した。それまでは「割りリム」と呼ばれるボルト止め式の、ハブの軸の取り付け部分がドラムと共用で取り付けられるタイプのリムを採用し続けていたが、四輪駆動車では強度アップをはかりたいということで現代的なホイールリムを採用するようになっている。割りリムは整備性が良く、密着性も高いことからチューブ付きタイヤ向きとされていたが、タイヤもチューブレス化が進み、時代の変化に合わせたものといえる。

 また、のちにサンバーバンの伝統となるマルチフラットシートは3世代目から装備される。後席シートを跳ね上げると完璧にフラットな床が出現。後席を使いながら床板の下を収納スペースとして使うことも可能だった。


マリオ高野 MARIO TAKANO

SUBARU BRZ GT300公式応援団長(2013年~)

愛車
初代インプレッサWRX(新車から28年目)/先代インプレッサG4 1.6i 5速MT(新車から8年目)/新型BRZ Rグレード 6速MT
趣味
茶道(裏千家)、熱帯魚飼育(キャリア40年)、筋トレ(デッドリフトMAX200kg)
好きな有名人
長渕 剛 、清原和博

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