ガソリンスタンドから表彰されそうなクルマも!? 独断と偏見で選ぶ走りが楽しい「国産旧車」5選+α【石橋 寛編】 (2/2ページ)

あの頃感動したメカは今体感しても感動すること間違いなし

日産シーマ

 こちらは、ハイプロファイルタイヤと電制エアサスのコンビネーション推し。当時としてはVG型3リッターエンジンによる「怒涛の加速」がフィーチャーされがちでしたが、メカマニアにとってシーマのエアサスは言葉が見当たらないほどステキな機構だったのです。コイルスプリングに相当するエアチャンバーの設計や、内部モーターによるオリフィス径を切り替えた減衰調整など、シトロエンも腰抜かすような代物。

 おそらく、シトロエンがやってたら「ゼッテー壊れる!」のひと言で敬遠されていたに違いありません。

 もっとも、ゼロスタートでアクセルベタ踏みすると、モーターボートのごとくノーズが上がっていたので、当時は「ありゃ? エアサスどうした?」と唖然としたものです。実際は、きちんとリヤダンパーが仕事をしていて、タイヤグリップを懸命に保持していたんですがね。

 で、現在ではなかなか見かけない215/60R15というタイヤサイズも、シーマのトロんとした乗り心地に大きく貢献していたかと。タイヤとサスペンションの性能が筆者好み、と言ってしまえばそれまでですが、現在と違ってタイヤのケーシング構造を剛性方面に振ってないぶん、初代シーマはおおらかなテイストをゲットできたのでしょう。そのあたり、伊藤かずえさんにぜひともインタビューしたいわ。

トヨタ・ソアラ 4.0GT(Z30)

 前述のようにユーノス・コスモは「オレの世界遺産」的な存在ですが、次点、しかも僅差で挙げたいのが、こちらのソアラ、4リッターV8モデル。とにかく、エンジン、シャシー、デザイン、なにからなにまでいい感じ。

 じつは当時の試乗会に、メルセデス・ベンツ500SL(R129)で乗り付けたのですが、軍配は圧倒的にソアラ! アクセルペダルが軽いがゆえにトルクの出方がじつに繊細というか、優しい気がしたのです。また、シーマ同様コイルスプリングを使わない油圧電制アクティブサスの出来栄えも「それなり」にいい感じ。絶賛できないのは、首都高なんかで頑張るとやっぱガチガチのビルシュタイン、ペトペトのRE71入れたポルシェなんかに到底かなわないから。

 ともあれ、これこそ若気の至りでして1600kgオーバーのラグジュアリークーペと、1300kg台の911と比べる方が間違っているわけでしてね。仮想敵はやっぱりビバリーヒルズ走ってるリッチなクルマだったわけで、ソアラはその中だったらダントツの完成度だと断言できますね。

 ジャガーにダブルシックスがあるように、トヨタにはこの「1UZ-FEがあるのだ!」って感じ。買うなら2.5のターボとか、3リッターとか日和ったこと言わず、4リッター一択。燃費は悪いけど、反比例するように満足度は高いですからね。

ホンダ Z(PA1)

 ミッドシップ車を選ぼうと考えると、国産車で選択肢は多くありません。が、MR-2やNSX、はたまたビートなどはいずれも傑作車といっていいでしょう。それゆえ、あらゆるメディアで「国産ミッドシップ傑作選」的な企画も組まれていますよね。そこで、筆者としてはそこまでスポットライトは当たらないものの、確実に「乗っておきたいクルマ」と太鼓判がおせるホンダZ(2代目)をセレクトしてみました。

 660cc、軽自動車のミッドシップといえば前述のビートをはじめオートザム(マツダ)AZ-1なんてのが思い浮かぶはずですが、両車ともにエンジン横置きです。スポーツカーの資質におけるホイールベース対トレッドの重要性と、軽自動車の規格を相照らし合わせた結果の最適解といえるのでしょうが、「妥協点」と表現するのは意地悪でしょうか。

 その点、Zは縦置き! もっとも、悪路走破を目指したエンジン搭載位置の高さや、重心高の不利なボディ形状(ルーフが高い)もあって、前2車より物理的ジオメトリが圧倒的に優れているわけでもありませんがね。ただ、元フェラーリのエンジニア、マウロ・フォルギエリ風に「横置きだと?(失笑)」なんてマウントとれることは確かでしょう。

 走りのパフォーマンスでぜひ乗ってみてほしいのが溶けかけた圧雪路。ATで64馬力、しかも車重960kgと軽くはないので快哉を叫ぶには及びませんが、あたかもラリードライバーになったかのようなリニアリティはZでしか味わえないもの。この先、国産で縦置きミッドシップなんて新車は絶望的でもあるでしょう。市場価格が高騰しないうちにゲットするのも悪くないかもしれません。あ、乗るならターボついてないと、ラリー・モンテカルロを気取るにはさすがに非力ですからね。

番外編 BMW M5 E28(初代)

 羊の皮をかぶったオオカミ、すでに死語といえる表現でしょう。この言葉がひんぱんに使われた1980年代は、たしかに質素なスタイリングでわりと強力なエンジン、結果としてオラオラしていないクルマが少なくなかった気がします。ただ、オオカミといえども現代の基準からいえば「これ、養殖オオカミ?」ってくらいおとなしいことも確か。

 BMW M5も、初代となると3.5リッターの直6エンジンもたかだか286馬力と目を見張るようなものでもありません。1基ずつ手組み、などといわれても所有感こそ「ムフフ」となりこそすれ、今ではもっと胸アツなエンジンは山ほどありますからね。

 また、比較的大きなエンジンを載せているにもかかわらず、1270kgという車重は美点のひとつに数えられるものですが、ヒラリヒラリな感覚には乏しいかと。ノーズの入り方もさほどシャープでもないし、これはタイヤ性能によるのですが、コーナリングのエキサイトメントもオオカミにしては控えめです。

 それでも死ぬまでに乗っておきたい理由は「足るを知る」ことに尽きるかと。メルセデス・ベンツCクラスを評する言葉に「ミニマム、バット、マキシマム」というのがありましたが、Cの場合はマキシマムの度合いがさほど高くなく、あくまで庶民のマックスレベルでした。この例えでいうとM5の場合は控えめに言っても繊細にして秀麗なマックスレベルに達しているかと。

 つまり、高性能なクルマについてヒューマンレベルでの到達点を味わうことができるということ。電子デバイスによってトラクションやスタビリティがブーストされるでもなく、エンジンだってノーマルアスピレーションの最大効率の範囲内。ヒトが心地よく操ることができる範囲内でベストなメカニズム&パフォーマンスといったらわかりやすいでしょうか。

 嬉しいのは、操り方によっては簡単に牙をむいてくること。養殖だろうが、手なづけようが、オオカミには牙も爪もしっかりと備わっているのです。


石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

文筆業

愛車
三菱パジェロミニ/ビューエルXB12R/KTM 690SMC
趣味
DJ(DJ Bassy名義で活動中)/バイク(コースデビューしてコケまくり)
好きな有名人
マルチェロ・マストロヤンニ/ジャコ・パストリアス/岩城滉一

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