【試乗】日本カー・オブ・ザ・イヤー2022−2023大賞受賞車に乗ってわかった! 日産サクラの凄いところと要改善点 (2/2ページ)

軽自動車の枠に収まらない日産サクラが持つ可能性

 床下に搭載するバッテリーは重量が200kgほどもあり、結果として重心を下げることに貢献して操縦安定性には優れている。また、フロントのエンジンはモーターに置き換わり、ガソリン燃料タンクだった部分により多くのバッテリーが搭載されたことで前後の重量配分は大幅に改善され、運動性能や操縦安定性は大きく改善されている。一方で、直進安定性や横風の影響などは、そのボディ形状と転がり抵抗の少ないタイヤ特性が災いし、上級車のような安定した直進安定性とはいえない。ややフラフラとした走り味が気になるところだ。

 一方で、路面の段差を乗り越える際の衝撃などは穏やかになっている。これはリヤサスペンションがデイズのトーションビーム方式から3リンク方式に改められたことによって横剛性が向上したことと、重量増加に合わせたダンパーのチューニングが適切に行われた結果といえる。

 高速での車速の高まりは極めてスムースで、制限速度まで何のストレスもなく一気に速度を上げることができる。ドライブモードはスポーツ、スタンダード、エコの3モードが備わり、デフォルトはスタンダードであるが、スタンダードにおいても何ら不満のない走りを得ることができる。エコモードを選ぶとよりトルクの出方がマイルドになって市街地などでは使いやすい。また、高速道路でもアクセルオフをしたときにコースティングが得られてエネルギーの回収は減るが、高めた速度を維持し続けて走ってくれるので走行しやすい。

 スポーツモードを選ぶと、より少ないアクセル開度で、より大きなトルクが引き出されるので、キビキビとした走りが楽しめる。日産独自のe-Pedalによるワンペダル方式を選択するとアクセルオフするだけで最大0.2Gまでの減速回生が得られる。市街地においてはほぼブレーキペダルを踏むことなく走行することが可能だ。ただ、リーフやアリアのワンペダルのように停止までを制御するものではないため、最終的に低速から止まる部分はブレーキペダルを踏まなければならない。

 ブレーキはフロントがディスクブレーキ、リヤはドラム式ブレーキでEPB(エレクトリックパーキングブレーキシステム)を採用。また、ブレーキのブースターも電動油圧のものを採用していてVDCなども装備している。その辺りは、ウエット路面やより悪条件化での走行安定性の確保で安心感を大いに高めてくれるといえるだろう。

 充電に関しては一般的な30kWhの急速充電器では、バッテリー温度が高い状態だと30分給電しても多くの充電量が得られないケースが多く報告されているが、サクラは冷媒で冷却することにより、より多くの電力を急速充電で賄えることになる。連続して給電を行っても温度管理が充電効率を維持してくれるので、70〜80%ぐらいまでの充電量電力を常時確保できるだろう。

 電費に関して言うと、市街地の走行でエアコンを稼働させると7km/kWhという数値がメーターで確認できる。20kWhのバッテリーだからすべてを使い切ればそれでも140kmの走行距離が確保できるというわけだ。一方、激しく加減速を繰り返し、上り坂などの負荷の大きな場所を走行していれば、数値は2〜5km/kwhと悪化してくる。そういう悪条件をメーターで視認して知ることにより、電力をうまく使うことをドライバー自身が工夫することもできる。

 日産の算段としては、片道30kmで往復60kmといったような使い方を毎日行う市街地のユーザー、通勤や通学、買い物などで短距離での使用がメインのユーザーであれば、今回の20kWhの電力で十分日々不安なく使用ができるという計算をしている。ただ、遠出しようとした場合は、充電スポットとバッテリー温度など、緻密な充電計画を立てていく必要があり、長距離走行が多いユーザーに対してはよりバッテリー容量の大きなリーフやアリアのようなモデルが適しているというわけだ。

 すでに電気自動車で大容量のバッテリーを持っている家庭でセカンドカーとしてサクラを購入するケースも考えられるし、Vehicle to Home(V2H)で夏場のピーク電力回避や災害時など車載のバッテリーで家庭の予備電源を確保するという意味で、予備電源バッテリーを購入する感覚でサクラを購入するというパターンも考えられるという。

 実際に軽自動車はコンパクトでセカンドカーとしての存在意義は非常に大きなものといえるし、いきなり大きなバッテリーの大型な普通車をBEVとして高額で購入するよりも、まずはセカンドカーとしての位置づけでEVの使用に慣れるのがいいだろう。給電設備のインフラを自宅内で整えるなどの準備とBEV生活の第一歩の入門としても、サクラの存在は大きな意義があるといえるだろう。

 電気自動車が大きなトルクを発生し、その制御においてガソリンエンジン車よりもあらゆる走行シーンで優れていることはもはや疑う余地のないところで、バッテリーの重さが軽くなれば電気に勝るパワートレインはないといっても過言ではないほどだ。現状はまだリチウムイオンで200kgものバッテリーを搭載しているが、今後バッテリーの改革が進めば、より電気自動車が主たる自動車のパワートレインとして積極的に採用され、広がっていくことは想像に難くない。

 軽自動車規格では三菱がi-MiEVという電気自動車を2008年に登場させ話題を呼んだ。実際、当時の試乗した印象からしてもその走行性能は必要にして十分以上のものであり、航続距離と充電の問題だけが課題といえたのである。それから10年以上が経過してバッテリーの性能も高まり、航続距離はほぼ倍ぐらいに改善されている。今後さらに進化し、現状のサイズ感でWLTCモード300kmも走れるようになれば、まったく不安のない使用感が得られることだろう。

 サクラは、そのパッケージングにおいてもデザインにおいても、また使い勝手や質感など、あらゆる面でこれまでの軽自動車の延長ではなく、普通車の持っている高級感や素材のぬくもりなどさまざまな意味で改革を行っている。それがサクラの魅力としてより多くの人に評価され、結果として電気自動車が世の中に浸透していくきっかけとなるだろう。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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