新車で買えるのはたった2車種! 人生1度は乗ってみたい「V10」エンジンの魅力と搭載車 (2/2ページ)

V10の採用は当時のF1参戦のブランディングも兼ねていた

 たとえば、現行型ではV8ターボエンジンを積むBMW M5だが、かつてはV10を積んでいた。

 2004年にデビューしたBMW M5は5リッターV10NAエンジンを搭載した。冒頭でも記したように、F1がV10レギュレーションだったことをブランディングに利用したこともあったが、それまでにM5が、直列6気筒、V型8気筒とモデルチェンジごとに進化した流れを受けたという面も否めない。

 もっとも、次のモデルチェンジではダウンサイジングターボ・トレンドの影響を受けたのか4.4リッター V8ターボとなってしまった。したがってBMWのスポーツV10を味わえる貴重なモデルであることは間違いない。また、同じエンジンは同時期にラインアップされていた2ドアクーペボディのM6にも載せられている。

 そのBMWの至宝ともいえるV10エンジンのスペックは、以下の通り。

総排気量:4999cc
最高出力:373kW(507馬力)/7750rpm
最大トルク:520Nm/6100rpm

 ちなみに、現行型のM5 Competitionに積まれるV8ターボのスペックは、次のようになっている。

総排気量:4394cc
最高出力:460kW(625馬力)/6000rpm
最大トルク:750Nm/1800-5860rpm

 パワーやトルクの数字だけを見ると最新の過給エンジンが優位だが、高回転域までカーンとまわすことがスポーツエンジンの楽しみ方と信じているユーザーにとっては、かつて積まれていたV10エンジンのほうが魅力的に感じるかもしれない。

 そんなF1直系、高回転といったキーワードを、より純粋に突き詰めたV10エンジンを積んだスポーツカーといえば、日本の自動車史上に燦然と輝くスーパースポーツ「レクサスLFA」を忘れるわけにはいかない。

 車両の発売こそ2010年だったが、開発のスタートは2003年頃と言われている。当時、トヨタはF1にコンストラクターとして参戦しており、レギュレーションに合わせてV10エンジンを積んでいた。レクサスの最高峰スポーツカーであるLFAに相応しいエンジン形式は、おのずとV10になったことはうなずける。

 V6エンジン並みの重量、V8エンジンと同等のコンパクトさをテーマに開発された完全専用設計のV10エンジンのスペックは以下の通り、バンク角はセオリー通りの72度となっている。

総排気量:4805cc
最高出力:412kW(560馬力)/8700rpm
最大トルク:480Nm/7000rpm

 驚くのは、最高出力の発生回転が8700rpmとなっていること。国産の量産エンジンとしては、レブリミット9000rpmを誇ったホンダS2000(前期型)のF20Cエンジンが知られているが、それでも最高出力の発生回転は8300rpmだった。こうして比べてみると、LFAの8700rpmというのが、どれほど“非常識”に高回転なのか理解できるだろう。

 また、72度というバンク角はエンジンの搭載位置が高くなってしまうというネガもあるが、そこはドライサンプ化することで解決している。オイルパンを廃し、そのぶん低く搭載できるようにしていたという点においても、半端ないこだわりが感じられるV10エンジンだ。

 それはさておき、販売終了から10年以上を経てもレクサスの公式サイトにはLFAのページが残っている(https://lexus.jp/models/lfa/)。その事実だけでも、レクサス(トヨタ)にとって特別な存在であることを感じてしまう。

 最後に、紹介するV10搭載マシンが2003年に誕生したポルシェ・カレラGTだ。ドライサンプ式のエンジンを専用に開発。カーボンボディのミッドシップに搭載するという設計は、ロードゴーイング・レーシングカーと呼びたくなるものだが、もちろん公道走行用スポーツカーとして作られている。

 カレラGTのV10 エンジンにおいてユニークなのは、バンク角が68度となっていること。そのエンジンはもともとル・マン24時間レース参戦用に開発されたものといわれ、公道仕様にするときにボアアップにより排気量を増やしたといわれる。スペックは以下のとおり。

総排気量:5733cc
最高出力:612馬力/8000rpm
最大トルク:590Nm/5750rpm

 排気量を感じさせない高回転ぶりは、10気筒というマルチシリンダーならでは。まさにレーシングユニット直系であることを感じさせる。ただし、カレラGTのエンジンマウントは快適性なども考慮したフローティング式で、レーシングマシンのようにリジッドで積まれていることはなかった。そのため、サスペンションもカーボン製のサブフレームから生えるという設計で、ポルシェらしいスーパースポーツとして生み出されたことが理解できる。

 こうして、2000年代に生まれたV10エンジンのスポーツカーを見ると、当時のF1がレギュレーションでV10エンジンを積んでおり、V10こそスポーツエンジンの正しい姿というマーケティングがしやすかった時代背景を感じさせる。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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スズキ・エブリイバン(DA17V・4型)/ホンダCBR1000RR-R FIREBLADE SP(SC82)
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