究極のエコカーとして話題になった水素燃料電池車! その後普及しているように見えないけど……と思ったが「商用車」の世界で着々と進んでいた (2/2ページ)

商用車分野での普及が突破口

 乗用車市場においてFCVがBEV(バッテリー電気自動車)に対して劣勢なのは、エネルギー効率とインフラの利便性の差による部分が大きい。BEVは自宅での基礎充電が可能であり、送電網という既存のインフラを活用できる。また、急速充電インフラは、ここ数年で順次整備され、年々増えている。

 一方で水素は、製造・圧縮・輸送・充填という各プロセスでエネルギーの損失が発生し、車両に到達するまでの総合的なエネルギー効率が低い。同時に各プロセスにかかるコストが高く、供給インフラの構築に莫大な投資を要するのだ。

 しかも、現状で流通している水素の多くは天然ガスや石炭から製造される「グレー水素」であり、製造過程でCO2が排出される。再生可能エネルギーを使って水を電気分解して製造する「グリーン水素」であってこそ真の意味での脱炭素に貢献できるのだが、グリーン水素の製造コストは現時点で高く、量産体制の確立にはまだ時間がかかる。

 ただし、水素の未来を完全に悲観する必要はない。活路として注目されているのが商用車への展開だ。経済産業省は2025年5月、水素燃料電池トラックやバスの導入促進に向けた「重点地域」を選定し、東京都・神奈川県・福島県・愛知県・兵庫県などが対象となった。同時に商用FCVへの水素燃料費として1kgあたり700円の補助も開始された。これにより、化石燃料に近いコストでの運用が可能になる。

 なぜ商用車なのか。大型トラックやバスは走行距離が長く、重荷を積載し、短い休憩時間での燃料補給が求められる。こうした用途では充電時間や車両重量の面からFCVが有力な選択肢になるとの見方がある。大型商用車をバッテリーで電動化する場合、巨大で重量のあるバッテリーを搭載する必要があり、積載量や航続距離に深刻な制約が生じる。また、長時間の充電による稼働率の低下も物流事業者にとって致命的だ。FCVであればこれらの課題を克服できる可能性が高く、各国の自動車メーカーや商用車メーカーも、大型商用車向けの燃料電池システムの開発や実証実験を進めている。

 FCVは、乗用車として普及しなくても、物流や公共交通の領域で根を張ることができれば、水素インフラの拡充にもつながっていく。経済産業省が策定した水素基本戦略においても、発電、産業、運輸の各分野で総合的に水素需要を創出することが明記されている。鉄鋼業などの脱炭素化が困難な産業分野や、大規模な定置型燃料電池による発電において水素の大量消費が実現すれば、規模の経済が働き、水素の供給コストは大幅に低下する。

 それに伴い、水素ステーションの整備も不特定多数の乗用車を対象とした面的な展開から、特定の物流拠点や幹線道路沿いに集約する線的な展開へと戦略が移行しつつある。現状では乗用FCVがいつ広く普及するかという具体的な時期を断定することはできない。しかし、商用FCVが一定の市場を形成し、水素サプライチェーンの整備が進めば、将来的に乗用FCVの選択肢が広がる可能性もあるのだ。


この記事の画像ギャラリー

新着情報