「GR」「クロス」を除いてもフィットやノートは勝てない! 窮屈で狭くても「ヤリス」がバカ売れする「数々の理由」 (2/2ページ)

グレードの豊富さとダウンサイジングモデルの有無が明暗を分けた

 まずはグレードが豊富なことだ。エンジンとパワーユニットは、直列3気筒の1リッター、1.5リッター、1.5リッターハイブリッドの3種類から選べる。1リッターを搭載するX・Bパッケージは、衝突被害軽減ブレーキを省いたから推奨できないが、価格は140万円を下まわる139万5000円だ。

 その点でノートは全車がハイブリッドのe-POWERだから、最も安価なSでも202万9500円になる。フィットは1.3リッターノーマルエンジンでもっとも安いベーシックが155万7600円だ。ヤリスは価格が全般的に安く、とくに1リッターエンジンの搭載が利いている。

 そこで販売店に1リッターエンジン車の需要について尋ねると以下のように返答した。「1リッターエンジンは、基本的には法人のお客様を対象に設定されたが、装備の充実する1リッターのGも用意している。買い物など短距離移動が中心の場合、一般のお客様も1リッターのGを選ぶ。1.5リッターに比べて価格が約14万円安いからだ」。このようにヤリスは、ノートやフィットに比べるとエンジンやパワーユニットの選択肢が多く価格帯も幅広い。そこが好調な売れ行きに結び付いた。

 また今のトヨタ以外のメーカーは、軽自動車に力を入れる。2021年1〜5月の販売状況を見ると、国内で売られた日産車の42%、ホンダ車の57%が軽自動車だった。ノートやフィットといったコンパクトカーの需要が、同じメーカーの軽自動車に奪われている事情がある。

 この点について日産の販売店は以下のように説明した。「新型ノートはe-POWERのみで、先代型と違って150〜160万円のノーマルエンジン車が用意されない。先代ノートのお客様が新型のe-POWERに乗り替えようとすれば、予算がオーバーする。マーチは低価格だが、今では発売から10年以上を経過した。そこで先代ノートのノーマルエンジン車を使うお客様には、軽自動車のデイズやルークスを推奨している。価格は先代ノートと同程度で、安全装備はマーチよりも充実しており、運転支援機能のプロパイロットも選べる。実際に乗り替えが進んでいる」。

 ホンダでも軽自動車のN-BOXが好調に売れて、フィットの競争相手になっている。その点でトヨタは、一部のOEM車を除くと軽自動車は扱わない。パッソは発売から5年を経過したので、小さなクルマに乗り替えるユーザーがヤリスに集中している。

 トヨタでは2020年5月から、国内の全販売店が全車を扱う体制に移行した。この変更もヤリスの売れ行きを押し上げた。ヴィッツはネッツ店のみの取り扱いだから全国に約1400店舗だったが、今は全店の4600店舗が販売する。日産の2100店舗弱、ホンダの2200店舗弱に比べると、ヤリスの販売網は2倍以上になる。以上のように複数の理由に基づいて、ヤリスはほかのコンパクトカーよりも好調に売れている。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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