【試乗】見た目に差はないが走りに違いアリ! 新型シビックはCVTかMTか悩ましいその中身 (3/3ページ)

若者に向けた新型シビックがどう評価されるかが気になる

 次は6速MT車に乗り換えてみる。

 6速MT車もエンジンは同じでトランスミッションがマニュアルとなったこと以外に差はない。インテリアには赤いステッチが縫い込まれていたり、ドアにイルミネーションが埋め込まれていたりするが、大きな差はない。

 シフトレバーの位置は同じくドライバー側に偏っていて、より近い位置に配置されている。ステアリングから少し手を離せばシフトレバーノブに手が届き、非常に操作性の良いレイアウトがなされている。

 クラッチペダルを踏み込みギアをローに入れてみると、シフトストロークの少なさ、そしてカチッとしたシフトゲートのしっかり感に嬉しさを感じる。

 シフトストロークは前後方向だけでなく横方向も小さく設定されていてリターンスプリングの働きも良く、まるでフォーミュラカーのシフトレバーを操作するように手首を少し捻るように動かすだけで操作できる。1速から6速までストロークはほぼ前後左右同一の間隔で操作でき、コーナリング中でも極めて操作性が良い。

 一方でエンジンのトルク特性から非常に低い回転数で走り出すことが可能だ。アイドリングにプラス300回転ほど足せば十分に発進することが可能で、坂道発進でも多くの半クラッチ操作を必要としない。逆に低速回転から走り始められるので、一気に車速を乗せようとするとやや加速感が鈍く感じられてしまう部分もある。

 より高い回転でクラッチを一気にミートするレーシングスタートなどを行っても、最大トルクが1700回転で発揮されているのでそれは意味がないのだ。そういう意味ではフラットなトルク特性は逆に高回転まで引っ張ってもパワーの高まり感がなく回転の頭打ちを感じてしまうので、レブリミットの6000回転まで引っ張るような気持ちになれないのである。

 それでもこまめにシフト操作しながら走るのはとても楽しい。コロナ禍でステイホーム時間が長引く中で、日々の歩数も減少しているような最近の生活パターンの中にあっては、走りながら両足が適度に運動を行える3ペダルというのもまた魅力として見直されても良いと言えるだろう。

 高回転まで引っ張ったとしてもエンジンはじつに静かで振動も少ない。これは単純に液体封入マウントの効果だけでなく、今回新たに見直しを受けたクランクシャフトの高剛性クランクケースなどの効果も大きいと言える。

 減速区間はエンジンブレーキを多用することができ、またシフトダウンにより減速比を変化させることができる訳だが、今回のエンジンではアクセルを戻した時の回転落ちがあまりよくない。燃料カットでエンジンブレーキをかけている時も減速感が非常に少ない。

 それは気筒休止エンジンのバルブを閉じた状態で回転抵抗をほとんどなくしている時のようなフィーリングで、せっかく6速ギアから5、4速とこまめにシフトダウンしていっても、ブレーキを踏まないかぎり減速度を高めていけないというのは、マニュアルトランスミッション車としてはいささか魅力に欠ける部分と言えなくもない。

 サスペンションの設定は逆に6速MT車はフロントのステアリングの切り込みに対する応答性に優れ、しなやかながロードホールディング感となっていて、足まわりが一段階ソフトな印象を受ける。ワインディングなど曲がりくねったコースで積極的にステアリング操作する場面に適した設定になっているとえる。高速道路をただ巡航するよりも山道を得意とする印象だ。

 時速100kmの巡航では6速ギヤでエンジン回転数が2400回転となっており、これは近年のハイブリッド車やディーゼルエンジン車、欧州の直噴エンジン車など100km/h巡航回転数が1200〜1800回転という低回転で巡航燃費を稼ぐようなモデルに乗り慣れている者にとっては、いささか回転が高く感じる。

 6速を日本の最高速度120km/hの道路環境で実用的に使用しようすると、各ギヤ間で使用の割り振りが難しくなるため、現在のステップ比に落ち着いたのだと言う。

 今回の新型シビックは1990年代中盤以降に生まれたジェネレーションZ、いわゆる「Z世代」の人々に、より訴求できるキャラクタライズが施されているという。

 我々の世代から見るとそのジェネレーションZというのはいささか理解不能な面があるのだが、バブル期を経験しておらず、またさまざまな経済的な危機、そして自然災害も多く経験している世代なだけに、意味のない贅沢は求めず質実剛健で実用的なものに価値観を見出しつつ、その中でより優れたファッション性や自己アピールできる表現方法を模索する世代といえる。

 そうした世代にこの11代目新型シビックはフォーカスしているというが、果たして彼らは本当にこの新型シビックを選んでくれるのだろうか。これから販売上のマーケットリサーチで購入者の年齢層が明らかになってくれば、ホンダが目指したところの是非が明確になってくると言えるだろう。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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